挑み、弾かれ、いなされ地に伏させられ…
歯を食い縛って、起き上がってはまた、挑む。
もう、何度目になるだろう。
対してこちらは、
まだ一つの有効打すら打てていない有り様だ。
それ程までに、闘神ラダ・ガートの剣は苛烈で、
そして隙が見当たらなかった。
だが、こちらもただがむしゃらに
突進を繰り返しているわけでは無い。
吐く息荒く剣を構え、
まだ息切れ一つしていないラダ・ガート王を
青眼に見据える。
( 見逃すな…王の一挙手一投足。
戦技一つ一つの間合い、速度、威力…
そして行動の癖…!
…ほんの数秒ずつではあるが、
打ちのめされて起き上がる度に、
剣を打ち合っていられる時間は延びてきている。
相手は強大。だがそれでも。
挑み続けているうちに人間、
少しは学習、適応してゆくものである。
( もっとも…これが実戦なら、
王の最初の一撃で おれはただの
雑兵として散っていたんだろうが…!
懐深く何度でも構えてくれ、
そして遠慮なく全力で叩き伏せてくれる
ラダ・ガート王には、まったく感謝しかない。
( その心遣いを裏切るワケには
いかないよな…ッ!
『 うぉおおッ!!
剣を振りかぶり、全力疾走。
だが、そのまま剣を打ち合ったのでは
今までの二の舞、三の舞。
( 鉄壁の進軍…!!
おれは、王の間合いの外ギリギリから
剣を振り抜く…と、見せかけて…
敢えて素早くステップを踏んで王の懐に飛び込み、
剣を持たない左の拳を突き出した。
今のおれは冒険者。
騎士剣術のみに拘る必要はないのだ。
相手を倒すために全力を尽くす!
( 村王仕込みの拳闘術だっ!
果たして。
奇策だったが、コレが意表を突いたらしく。
拳こそ避けられはしたが、王の体勢を少しだけ
よろけさせる事に成功した。
決して、隙を作ったと言う程のものではないのだが、しかしこの機を逃すわけにはいかない!
『 おぉおッ!
続けざま、おれは気合いの声に乗せて
超速の四連斬を放った。
『超はやぶさ斬り』。我が最速の剣技だ。
いくら英雄と言えど、
これ全ては躱し切れまい!
しかし。
王から一本取れるのでは、との期待空しく。
我が連撃は、王の二刀に
ことごとく阻まれてしまう。
( えええッ!四連武器ガードぉぉッ!?
『福の神』かよ!?
バトルマスターの様に守りを捨てたスタイルの
ようでいてその実、彼の二刀流は攻守、
兼ね備えているというのか。
いや感嘆している場合じゃない。
転じて、王の反撃が始まる!
動揺を隠しつつ、
剣と小盾で、王の剣を必死にいなしながら
少しずつ後退してゆく。
( かくなる上は…!
みなぎる闘志と生きる意思が…
我が手の中で、紅蓮の戦旗となって具現する!
☆ ☆
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☆ ☆ ☆
『 パラディン…ガぅぉおっー!?
『 甘い!
彼ほどの遣い手を前にしては、
我が切り札、出す暇が無い!
出が遅いのが、パラディンガードの
最大の弱点なのだ。
出鼻くじかれ、続く王の猛攻。
バトマスの秘奥義、『古今無双』も
かくやと言わんばかりの速く重い連撃を、
まるで基本技のように、これでもかと連発してくる。こんなの、いつまでも防げるものではない。
息も絶え絶え、まるで打つ手が見当たらないまま、
たまらず大きくバックステップを繰り出して
おれは王と距離を取った。
それを見て、王は終幕とばかりにニヤリと笑い…
そして、再び『あの構え』を取った。
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
最初の一手で意味も解らず
おれを打ちのめした、あの構えだ。
( だが今なら…
落ち着け、考えろ!
☆ ☆
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☆ ☆ ☆
傷だらけの火照った身体に、
試練場の寒風が染みる。
最初の緊張は、もう感じない。
我が心は、今は不思議と凪いでいた。
( ラダ・ガート王は、振るう剣速こそ
凄まじいが…本人はどちらかと言うと、
スピードタイプじゃあ無い。
つまり…あの一瞬の閃光は、
歩法の類では無いはず。
と言う事は…!
王の、剣持つ手がゆらりと揺れる一瞬を、
おれは今度こそ見逃さなかった。
彼の剣が閃くその一瞬前に、
意を決し、試練場の土を大きく蹴って跳躍する。
( 凄まじい剣圧による、
音速の衝撃波…それが正体かッ!!
眼下に見えたのは、ギガスラッシュとも異なる、
無色の闘気を纏って真っ直ぐに飛ぶ剣閃。
( なんてデタラメな…いや分析は後だ!
反撃のチャンスは今しか無い!
空中でおれは、すかさず女神の印を切った。
『 おおおお…!
グランド…ネビュラーッ!!
~つづく~