『 俺の旅は、国を興す事で終わったが…
ザラターン。お前はおそらく、
俺の踏破できなかった様々な場所を歩き、
俺の見る事の無かった、
色々な景色を見て来たのだろう。
ラダ・ガート王は、返した描きかけの地図を
空に透かして、遠く眺めた。
『 そんなお前に、一つ問いたい事がある。
…そして、改まってこちらに向き直った
王の顔を見ておれは、少々戸惑った事を覚えている。
『 お前は…
人を守り、導く【神】という存在が。
この世界に、本当に必要だと思うか…?
『 !?
王の突拍子の無い問いに、おれは驚いた。
…天使達が、この天星郷に『英雄』達を招いたのは、神々の去ったこの世界に、彼らを
『新たなる神』として迎える為、と、
聞いた事はあったが…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
創生の女神と、かの神の子ら…
七柱の種族神によって、世界は創られた。
そして、永らく彼ら神々の手によって、
この世界は守られて来たと聞いている。
きっと、神々の力無くしては、
とうに滅び去っていた事だろう。
それ程に、このアストルティアは、
迫り来る脅威に事欠かない大地。
( 幾度も世界を救った『勇者と盟友』の力も、
源泉を辿れば『神の力』だった訳だしな…
『 世界の平穏を維持するためにも、
『人』の上には『王』がいて、
その上に『神』がいる。
当然の理屈だと思います。
…故に、これが疑いようの無い世界の『理』。
( …ではあるんだが…
ラダ・ガート王に意見を述べながらも、
おれは自身に違和感を覚えていた。
( きっと、彼が
おれに求めてるのは、
そんな当たり障りの無い
一般論じゃあない。
おれは冒険者。
己の目で見て、心で感じた事を語るべきだ。
それが…たとえ、
今まさに神に成らんとする英雄の、
気分を害したとしても。
『 でも…
『 でも?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 おれは、旅をして知りました。
『神様』だって、決して
全知全能の存在じゃあ無いって事。
時には、迫り来る難題を前に、
悩んで悩んで…
悩み抜いて、そして断腸の思いで
泣く泣く決断し…
でも力及ばず失敗して、
己の決断を後悔し…
永く苦悩し続けたりする事だってある。
( だったら【神って何だ】?
おれ達ヒトと、どこが違う。何が違う?
時にチカラの象徴として。
迷える人々の、心の拠り所として。
…神という存在は、この世界に
不可欠なのかもしれない。
でも。
『 だからこそ。
人々を守り、導く神が、もしいたとして。
おれ達…人は、その存在に…
頼り切りになっちゃいけない。
たとえ己がいかに無力でも。
自分の頭で考えて、
自分の足で歩もうとする事を、
決して、諦めちゃいけないんだ。
と…おれはそう、思ってます。
『 ……
おれが語り終えても、
王は無言で、目を閉じて腕を組んでいた。
『 はは、すいません!
質問の答になって無いかもしれませんが。
『 いや…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 礼を言う。
…そう短く答え、
頭を下げたラダ・ガート王の横顔は
いつもの無表情だったが…
なんだか、少し嬉しそうにも、寂しそうにも見えた。
元々あまり表情を動かさない人だったので
その真意は解らない。
…おれが勝手に、
そう思いたかっただけなのかも知れない。
~ラダ・ガート・了~