『 いやー、最高だったよな!
『 おう、フェディーラさん差し入れの…!
…満天の星空に、酷く歪で不気味な月が浮かぶ。
ここは天星郷、神都フォーリオン。
男二人の何気ない会話が、
冒険者達が集い、元々賑やかな酒場の喧騒に、
ダメ押しの焚き木を添えている。
『 牛乳プリン!!
声の主の一人は何を隠そう、このおれ。
騎士くずれの冒険者、ザラターン。
強いて語るならば、
プリンは白いプリンが好みである。
そして、もう一人は…
『 珈琲ゼリーッ!!
『『 …あ“ !? 』』
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 てめェザラたん…
ふざけた事ぬかしてんじゃねェぞ…!
俺ァ牛乳プリンなんて糞スイーツ、
プリンだと認めねーよ?
この、ふざけた事をのたまいながら目クジラたてる
ウェディの名は、ゲンリュウ。
今回の、天星郷を巡る一連の冒険の途中で知り合った海賊である。
何の因果か…それとも、浪漫を追う者同士の必然か。奴もまた、この天星郷で
再会した冒険者の一人だった。
『 はあ!?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ゲン、おれの牛乳プリンさんを侮辱すんのか?
そっちこそ、ゼリーってのは
基本フルーティであるべきだろ!?
『 あァ!?やンのかオラァァン!?
珈琲ゼリーはそらもう最ッッ強よ!
牛乳プリンなんてクソ雑魚相手にもなるか!
いいぜ抜けよ表出ろやァァッ!!
『 望むところやらいでかァ!
今日こそケリ着けたらァッ!!
多少の酒が入り、頭に血が上った野郎二人が
連れ立って酒場を出て行く。
その背中ごしに、なんだか聞き慣れた
嘆息が聞こえた気がした。
『 あいつら…ハナクソみたいな理由で
喧嘩してんじゃねーよ…
『 いつもの事じゃん?
なんだかんだ仲良しだよねぇあの二人。
あっ、そこの唐揚げもらいっ♪
…さて、ジア・クトとの決戦も
最終局面を迎えている今。
おれ達冒険者が、何故こんな所で
燻っているのかと言うと…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 英雄達以外は待機…だって!?
『 ああ。それが最善だと思っている。
もどかしいだろうが、一時の辛抱だ。
よろしく頼むよ。
…天星郷の長、
天使長ミトラーの考案した作戦。それは…
まず英雄達が敵の本拠地『魔眼の月』へと
秘密裏に潜入し、決戦兵器である主砲を無力化する。
その後で帰還した彼らを迎え、
このフォーリオンに集う全戦力で持って
総力戦を行う、というものだった。
魔眼の月の主砲…『魔眼砲』の威力は凄まじく、
一撃でも放たれようものなら、それだけで
アストルティアは壊滅的な被害を被る事になる。
それだけは、何としても阻止する必要があった。
失敗は絶対に許されない。
故に、結果として少数精鋭の英雄達に
作戦のほぼ全てを託すカタチとなったワケだ。
冒険者達の中には、その決定に不満を漏らす者も
少なくは無かったが…しかし。
おれには作戦考案者であるミトラー自身も、
どことなく悔しそうにしているようにも見えた。
奇抜なミラーグラスの、
その下の素顔を確かめる術は無いが。
( …己の判断一つで
世界の命運が決まる、か。
まあ、天使長以外の、
誰にも指せない重い一手だよな…
…とにかく、すでに賽は投げられた。
おれ達は、今はただ、英雄達を信じて
待つ事しか出来ないと言う事だ。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
人気の無い広場に、剣戟の音が響く。
ゲンリュウ…ゲンとこうして手合わせするのは、
もう幾度目かになる。
奴とは、お互いの価値観こそ認めれど、
性格や考え方については
全く『ソリが合わない』言うやつで…
でも年齢や冒険者としての実力は近く、
鍛錬の相手として見るなら最適だった。
ゆえに先程のように、
互いが何かと下らないイチャモンを付けては、
喧嘩よろしくの試合をしいてるのだった。
…何度か剣を打ち合い、
鍔迫り合いになった所で
ゲンがおもむろに語りかけてきた。
『 よう。ラダ・ガートと
手合わせしたんだって?
~つづく~