天星郷、神都フォーリオンの一画に、
『回生堂』と呼ばれる、
主に英雄達が寝泊まりする為の宿泊施設がある。
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その建物の一室に、今はジア・クト念晶体の一個体が捕虜として監禁されていた。
捕虜の名は『ジア・ルーベ』。
まるで燃え盛る炎のような逆立った頭髪と、
磨かれた紅玉さながらの真紅の体を持つ、
少女のような体型をした念晶体…
(言わば鉱物生命体)である。
その真紅の体が示すとおり、
ルーベは【偉大なる原石】と称される
ジア・クトの中でも最上位とされる存在の一角で、
首魁である【ジア・レド・ゲノス】の
腹心でもあったのだが…
今は、主に利害関係の一致から、
一応は天星郷の協力者、という立場となっていた。
しかし…
『 どう言う事だ、ルーベ。
彼女を尋問する天使長ミトラーの声は、
いつに無く緊迫していた。
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『 ジア・クトの一個師団が、
ここ天星郷へ向かって
進軍中だと言う情報が入った。
『そんな非効率な事はしない』んじゃ
なかったのかい?
以前、彼女から、
ジア・クトは白兵戦による総攻撃を予定していない
と言う解答を得ていただけに、
ミトラーは内心、焦っていた。
この期に及んで、ルーベが嘘を吐くとは思えないが…
『 ルーベが提供した情報に偽りはない。
疑うのは勝手。
でも徒労に終わると忠告する。
ミトラーの質問に淡々と答えたルーベだったが、
しばらくして、何かを思い出したように
ハッと顔を上げ、『しかし…』と付け足した。
『 一つ、失念していた。
行動を予測できない『ひとかけら』が居るの、
ジア・クトには。
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『 【ジア・イロン】。
おそらく そいつの独断によるもの。
今回の、その進攻は。
聞き覚えの無い名前は出てきたものの、
ルーベの解答に、ミトラーはひとまず安心していた。
どうやら彼女が裏切り、こちらの行動を
ジア・クト側に捕捉されていたと言う
最悪のシナリオは免れたようだ。
英雄達の潜入作戦に、支障は出ていないはず。
となると、気になるのは…
『 ジア・イロン…?
何者だい、そいつは?
『 厄介者。
度々ゲノスの命令を無視して、
好き勝手に行動するの。イロンは。
『 おいおい…ジア・クトでは、
そんな奴を野放しにしているのか?
『 イロンは強い。
輝きを持たないクズ石でありながら、
ルーベ達、偉大なる原石と比べても
遜色ない戦闘力を持っている。
そこに戦略的価値を見出されているから。
粛清されないのは。
不本意だったけど。ルーベ達は。
『 …なるほど。ジア・イロンは
『成り上がりの戦闘狂』
と言ったところ、か。
やれやれ、次から次へと…
…ミトラーの脳裏に、
以前、偉大なる原石の一角、ジア・ルミナに
遅れを取った、苦い記憶が蘇る。
あれに匹敵する脅威が、
再びここへ迫りつつあると言うのか。
眉間のミラーグラスを押さえて
ため息を吐くミトラーを見て、
ルーベはまるで鬼の首をとったような顔で
クスクスと笑った。
『 止められないかもね。
主力を欠いた、今のアンタ達では。
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『 そいつはどうかな?
天星郷にはまだ、冒険者達がいる。
『 ボウケンシャ?
強いの?それは。
あのエックスとかいう個体より。
『 さーあて、どうかね?
ただ一つ言えるのは…
きっとお前達の定規じゃ、
色々と測りきれない奴らさ。
精一杯の強がり。
自分にも言い聞かせるように、ミトラーは
肩をすくめ、シニカルに笑った。
それを見て、ルーベは不思議そうに
首を傾げるのだった。
『 理解不能…
ふん、足掻くがいい。せいぜい。
『 ああ。
そうさせて もらうとするよ。
~つづく~