【 ここ天星郷へ向かって、
ジア・クトの一個師団が
侵攻中である 】
…天使長ミトラーによって、
突如もたらされた、不穏な情報。
この緊急事態に、
おれ達、冒険者の集う神都の酒場はー…
『『『 うおおおおッ!!! 』』』
…何故か、沸いていた。
『 考えようによっては好都合だよねー
エックスさんの負担を減らせるよ。
『 おう、英雄達ばかりに良いカッコさせねえぜ!
『 このままお留守番じゃ、
不完全燃焼もいいトコだったしな!
『 私達の世界は、私達が守らないと!
『 ンなのどーでもいいから暴れさせろォォッ!!
…などと。
不謹慎だが、まるでお祭り騒ぎの様相。
そんな光景を前に、おれも自然と口角が上がり、
士気が高まってゆくのを感じていた。
( そう、そうだった。
これがおれ達、冒険者って人種だ。
…世界の為、誰かの為、そして自分の野望の為。
ここ天星郷に集う者、一人一人の思惑はきっと
十人十色なのだろうが…
それでも一つの目的の為、
楽しみながら一丸となる事ができる。
そのノリこそが、我々冒険者の
最大の強みなのである。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
天使長をはじめとする周りの天使達は、
この妙に盛り上がった場の空気感に、
しばらく呆気にとられていた。
『 て、敵将『ジア・イロン』は、
神となった英雄でも苦戦する、
か、幹部クラスの実力者らしいんだが…
『 心配しなさんな天使長!
ワシらはサシで戦う訳じゃ無い!
『 そーそー、徒党を組んだ時こそが
オレ様達の真骨頂なんだぜ?
『 徒党て…
パーティと言いなさい、パーティと!
『 ヒマつぶしにはちょうどいいね。
次々と紡ぎ出される冒険者達の軽口に
返す言葉も思い付かないのか、
口をパクパクさせる天使長。
しかしその顔は次第に緩み、綻んでゆき…
ついには、盛大に吹き出してしまう。
『 ふ、あはははっ!
これは参った!ふふ…!
いや頼もしすぎるだろう、お前たち!
そして彼女は、
笑い涙だろうか…ミラーグラスの下を
さっと人差し指で拭うと、
この場をまとめるべく、
大きく息を吸い込むのだった。
『 よーし!野郎どもッ!!
気合い入れろオラァッ!!
これから私らは、ジア・イロン率いる
ジア・クトの一団を迎え撃つ!
そしてさっさと済ませて、
何事も無かったかのように
英雄達を迎えるんだ!!
それが今回の……
私らのクエストだッ!!
『『『 うおおおおおッ!!! 』』』
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
盛り上がる酒場の熱気に当てられそうになったので、風を求めて外に出ると…
酒場の様子を、
浮かない表情で遠巻きに眺めていたゲンを
偶然見つける。
おれは なんとなーく…
奴に歩み寄り、横に並ぶ事にした。
( ……
とはいえ…かける言葉を
咄嗟に思い付かなかったので、代わりに…
遥かな天星を、指差した。
『 …行くか?掴みに。
『 …あ?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
奴はしばらく、無言で空を見上げていた。
『 ……簡単に言ってくれるじゃねえか。
へっ…しょうがねえから、
死なねえ程度に付き合ってやるよ。
…そして視線を戻したゲンは、
いつもの気の置けない海賊に
戻っていたのだった。
『 あっ、いたいた!おーい!
『 ふん、まーた厄介な事になったな。
ま、ここで燻ってるよかマシか。
近くから、仲間の吟遊詩人と魔族の、
聞き慣れた声が聞こえてくる。
おれはその声に、
大きく手を振って応えた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
今回の、天星郷を巡ったおれ達の冒険。
その締め括りとなる
最後の戦いが、始まろうとしていた。
~つづく~