決戦用の鎧に袖を通し、
節々の具合を確かめる。
( うむ、やはり動きやすい!
重騎士が纏うにしては、やや軽量な
ハーフ・プレートメイル。
しかし、元の持ち主である
デッドリー男爵から聞く所によると、この鎧には、
何やら魔法的な防護術が施されているらしく
見た目以上の防御性能を期待できるらしい。
( 生まれ変わった この魔剣と共に、
ありがたく使わせてもらいます、
男爵…!
黒鋼の剣が収まった鞘をポンと叩き、
改めて腰の金具に吊るす。
鍔に嵌め込まれた冥曜石が
光を反射して一瞬、閃いたのを見て、
おれは改めて、気を引き締めるのだった。
『 …よし!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 貴様も この戦に
参加してくれるのだな、ザラよ。
いつの間にか側に来ていたらしい
天使のおっさんに、手を上げて応え、
ニヤリと軽口を叩く。
『 ああ。何せ おれは、
『補欠の補欠英雄』なんでね。
『 わはは!
それでこそ、このワシの見込んだ男!
『 そんな大層な。
酒場で偶然再会しただけだったろ。
『 いいやこのキカザリエル…!
今、猛烈に感動しておるぞ!!?
『 おっさん そんな名前だったの…
そうか、人の話聞かなさそうだもんな…
…遠い目のおれを全く意に介さず、
おっさんは一人、熱を入れて語り続けた。
『 いやまったく…出会った頃と比べて
良い面構えになりおって。
いや、それが本来の貴様の姿なのかもなあ。
思えば、始まりは…そう…アレだ!
行き倒れていたワシに、
貴様が食わせてくれた…アレ…!
ほら、アレアレ…なんだっけ…辛いヤツ!
『 1ミリも名前覚えてねえじゃねえのw
うはは!もういいよ、行ってくるよ!
『 ワシも!ワシも行くぞォォ!!
『 いいよ気持ちだけで。
『 あ、そう?じゃあ任せたわ。
『 切り替え早っ!?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 あたしも行く!
見届けなきゃ、みんなの戦い。
吟遊詩人として。
『 …そう言って聞かねぇんだ。
クソ雑魚ナメクジのくせに。
持ち場に向かう為に神都の外郭へ出ると、
ツキモリとエスタータが待っていた。
吟遊詩人の意志は固そうで、
魔族はすでに、うんざり顔でため息を吐いて、
そっぽを向いている。うん、諦めモードだ。
『 危険だ…と言っても、
ここも戦場になるかもしれんし、
どこに居ても、似たようなもんかもなあ。
…自分の身は自分で守れるよな?
『 もち!
支援とか、アイテム係するよ!
こう…『くすり!』『かくれる!』
『うたう!』みたいな感じで!
『 うん、正しい詩人スタイルだ、それは。
『 意味わっかんねぇ…
…実を言うと、先日のヴァリースタジアムでの
動きを目の当たりにしてから、
おれは、必要以上に彼女の心配はしていなかった。
身のこなしだけなら おそらく、
エスタータは おれよりも機敏に動ける事だろう。
正式に武術を教えたら、きっとかなりの戦士に…
なんて…まあ、それは野暮な話か。
ともあれ、こうして戦の準備は進んでいった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
かくして幕を開ける
【フォーリオン防衛戦】。
冒険者と有志の天使達で結成された連合軍…
おれ達を含む、その内の1グループが出向いたのは、神都を取り巻く四天の星の一つ。
【深翠の試練場】だ。
もし試練場の一つでも堕とされようものなら、
それだけで地上での被害は甚大なものに
なりかねない。
故に我々は、『神都防衛』と、
『四つの試練場防衛』の為に、
戦力を五分割する事となったのだった。
敵方の出方は分からないが…
まずはこの布陣で様子見と言うワケだ。
おれ達にとって、この深翠の試練場は
まったくの慣れない地…
というワケでも、実は無かった。
トレーニー育成帖のおかげで
わりと土地勘が身に付いたし、
空を飛ぶドルボード…
『聖天のつばさ』の扱いにも少しは慣れた。
飛びながら戦う、なんて器用なマネは
一生できそうにないが。
( しかし、
意外な所で役に立ったな、育成帖。
…脳裏に、『ナイスバルク!』と叫ぶ
キタエルの弾けんばかりの笑顔がよぎる。
おれはゲンナリして、頭を振ってその幻影を
振り払った。
そんなアホな事をしていたその時…
『 風が変わった…来るぞ。
ツキモリが、小さな羽根を
はためかせて呟く。
『 いよいよか…!
全員、結晶化対策の薬は飲んだな?
『 おう、いくぞ!
全員、勢い良く武器を構え、
臨戦態勢に移った。
~つづく~