『 風が変わった…来るぞ。
いち早くジア・クトらしき気配を察した
ツキモリの囁きに応じ、武器を構えたおれ達。
その言葉を裏付けるように、程なく。
我々の陣取る深翠の試練場の、
その上空が突如、歪んだと思うと…
それまで何も無かった空間から、
突然『小舟のような乗り物』が姿を現したのだった。
帆は無い。機械のような物も付いていない様だが…
しかしその舟は、音も無くその場に滞空していた。
『 【トリフネ】…?
エルフの誰かが、息を飲んで呟く。
その一艘を皮切りに、謎の舟は瞬く間に、
次々と姿を現し続け…
最終的に試練場の上空は、数十艘の舟で
埋め尽くされたのだった。
そして、その舟に乗っていたのは…
『 どうやらお出ましの様だな。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ん…?何だこいつら。
メーダに…キラーデーモン…か?
…どこか見覚えのある魔物達。
しかしその全身は、まるでメッキが施されたような、金属質の輝きを纏っていた。
色合いは様々だが、デーモン型やメーダ型以外にも、セルゲイナス型やドラゴンライダー型等、
数種類確認できる。
『 コイツらが、ジア・クト念晶体…?
『 ただのピッカピカの魔物じゃねーか!
『 食玩とかで無かったっけ、こう言う
メタリックなモンスターフィギュア!
『 スクエニショップでも売ってたわよ、
たっかいやつ!
なんか…思っていたより馴染みある光景に、
何となく緊張感の緩む場の空気。
しかし、賢者の一人が、警戒の声をあげた。
『 情報によると、ジア・クト念晶体には、
大きく分けて、二種類の
個体が存在するようです!
一つは、ジア・クトとして生を受けた、
生粋の個体。
もう一つは…魔物等が何らかの方法で、
後天的にジア・クトとなったらしき個体。
今確認できるのは、おそらく後者…!
『 いわゆるいつもの雑魚モンス…
尖兵ってやつだな!
『 そのとおり…
我々の会話を、ふと、冒険者でも天使でも無い
何者かの、無機質な声が遮った。
『『『 !? 』』』
全員が、声の方向を注視する。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ご機嫌よう。
ゆりかごの末裔よ…
声の主…『それ』は、舟の内の一艘から
音も無く地上へと降り立った。
一見、ヒトの様にも見えるが…
やはり先程の魔物同様、
全身が不気味に煌めいていた。
( おそらくこいつが…
生粋のジア・クト…!
『 お前が『ジア・イロン』かッ!!
誰かが、そう叫ぶ。
だが、そのジア・クトは、嘲るような笑みを
おれ達に向けてきた。
『 否定する。
イロン様は、お前達のような脆弱な者共に、
興味をお示しになられない。
『 なるほどな。
お前ェさんはせいぜい、部隊長ってェとこか。
敵将にしちゃ、覇気が無ぇと思ってたぜ。
隻眼のバトルマスターが、負けじと不敵な笑みで
大剣の切っ先を、ジア・クト側に突きつける。
『 ハハハハ…!
笑わせるな、下等種族!
侵略は、我らの本能。
支配とは、我らの嗜み。
…淘汰してやろう、
我らジア・クト念晶体が!
お前達、脆弱なる下等種族を!
ジア・クトが高らかに、不快な演説をする中、
ゲンの子分のサマーウルフが、
難しい顔で船長を見上げる。
『 なあ頭ァ、あいつ何言ってるんだワォン?
おれにゃ難しくてわかんねーォン。
ゲンは短剣を構えながら、
目を細めて、くっくと喉を鳴らした。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 【ぶつ切りでオッケーです】、だとよ。
『 ワォン!そいつは簡単で ありがてえや!
『 ザラたん!お前も、
相手がヒト型だからって、
躊躇すんじゃねーぞ!チョロ甘野郎!
ゲンの言葉を受けて、おれは剣を握る手に、
力を入れ直す。
『 分かってる。あいつ等は…
おれ達とは、絶対に相容れない存在だ!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
ヒト型のジア・クトの号令で、
魔物達が一斉に舟から降りてくる。
それに応戦する形で、おれたちも突撃を仕掛けた。
かくして、天星郷防衛戦における、
深翠の試練場での戦いは幕を開けたのだった。
~つづく~