開戦。
謎の舟から降りて、深翠の試練場へと
なだれ込むジア・クトの尖兵達を食い止めるべく、
我々は突撃を仕掛ける。
おれはひとまず乱戦に備え、
後衛を守る立ち位置についた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 か、硬っ!
『 メーダ、石みたいにかったいのに
ヌルヌル動いてる!
ワケわかんない!
『 何それ怖っ!きもっ!
…前線から、早速の悲鳴が上がる。
おれも前線から抜けて来る、僅かな
ジア・クト化した魔物達と交戦するが…
奴らの体は、見た目通り硬かった。
だが、ただ硬いと言う話ではなく…
石のように硬いのに、
なんだかゴムのような弾力も兼ね備えていて、
まるで人や動物のように
滑らかに、しなやかに動くのだ。
説明は難しいが、とかく。
切り結んでいても、何とも言えない、
不可思議な感覚だった。
( しかし、この不思議な感覚…
どこかで感じた事があるような
無いような…?
☆ ☆ ☆、
☆ ☆ ☆
( いや…多分 気のせいだろう。
うん、気のせい気のせい。
…原理の分からないまま溶け込んでいる事象って、
きっと世の中には いくらでもある。
おれは一瞬よぎった『柱』の影を頭から追い出した。
( うむ、要は
戦って倒せるなら問題無しだ!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ちっ、コイツら…!
硬えだけじゃなく、炎や氷の呪文も効き辛え。
全く通らねぇってワケじゃねえが…
やり辛え相手だぜ。
ツキモリが、火球の呪文を放ちながら舌打ちをする。近くに居た魔法戦士も、襲い来る魔物に
剣を振るいながら同意した。
『 どうやらジア・クト達は、全ての属性に対して
若干の耐性を持っているようです。
私も、皆さんに理力を付与すべきかどうか
悩ましい…!
『 どいてな!
呪文も刃も効きにくいってんなら…!
つえェェいッ!!“鉄甲斬・改″ーーッ!!
跳躍して来た女戦士が、空中から器用に一回転して
巨大な戦斧をジア・クト化した魔物に叩きつけ、
一撃のもとに粉砕する。
『 応!チカラで砕くのみッ!
チィエストォォーッ!!
筋骨隆々の武闘家が、闘気を帯びた拳を
気合いと共にジア・クトの胴体に数発叩き込むと、
こちらもガラガラと音を立てながら、
岩のように砕け散った。
それを見ていたゲンが、肩をすくめて
口笛を吹く。
『 やれやれ、チカラずくってのは
美学に反するんだがなァ…
『 言ってる場合か!ほら次が来るぜ!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ヒト型に気を付けろ!
数は少ないが、格が違うぞ!
魔物達は、ただ硬いと言う事以外には
さほどの脅威では無かったのだが…
ヒト型の『生粋のジア・クト』は、
奴らとは勝手が違い、
我々は大いに苦しめられる事になる。
『 いざなおう、氷獄へ…!
“ジア・コキュートス“!!
『『『 うわあああッ! 』』』
『 いけない!“ベホマラー“!!
ジア・クトを中心にして突如、
地面から幾つもの鋭い氷柱が円形を描いて発生し、
周りに居た多くの者が怪我を負う。
僧侶が慌てて癒しの呪文を唱えて、
立て直しを図るのだった。
…ヒト型のジア・クトが使う技の数々は、
我々にとって、未知の脅威だった。
おれ達の使う物とは異なる魔法体系なのか、
それとも何らかの兵器の類なのか…
攻撃の正体は掴めないが、
奴らは火炎や氷、重力波等を自在に発生させる事が
できるようだ。
『 奴らの放つ氷の弾丸に気をつけて!
炸裂したら、周囲に猛毒を撒き散らすみたい!
盗賊の娘が、目敏い警告を発する。
それを受けて、どうぐ使いがドンと胸を叩いた。
『 “氷毒弾“ってとこか。
よし、毒ったらオレっちに任せなァ!
“ プラズマリムーバー“すっからヨ!
治っから!プラズマで大概の事ァ治っから!
『 マジかよプラズマ!
『 スゲーなプラズマ!!
『 プラズマはスゲーがしかし、
ヒト型を野放しにしておくのは
厄介極まりないな…!
『 でもよアイツら、魔物型に輪をかけて
硬ッてえんだ!
『 奴らを封じるには…!ふんッ!
渾身の力を込めて黒鋼の剣を振り抜く。
目の前の魔物型のジア・クトは、
まるでバターを切るように両断された。
いける。この剣なら…!
『 接近戦を仕掛けるしかない。
おれの剣なら…多分ヒト型も斬れる!
『 おお…!
~つづく~