
無事、手頃な浮き島へと着地したおれ。
何だかんだ、天使のおっさんの創り出した光輪が
ワンクッションとなってくれたおかげで
命拾いしたようだ。
『 しかし、あのでかいのはどうなったんだろうな? さすがに、あんな化け物でも、
この高さから落ちたら助からんだろう。
…おっさんが遅れて降り立ってきたので、
鞄から『賢者のせいすい』を二本取り出して、
一本を彼に投げて寄越す。
『 そう思いたいけど…楽観視はできないな。
多分だが、ジア・クトは飛べるんだ。
戦場で宙に浮いてた奴を何体も見た。
どうやって飛ぶのかは知らないし、
長時間飛行できるのかも分からんけどね。
正直このまま くたばっててくれてたら
とてもありがたいのだが…
そんな事を語りながら二人、
腰に手を当て、聖水で喉を潤おした。
『 しっかし…ハァーッ!
五臓六腑に染みるなあ!
水がこんなに美味いとは!
『 だな。実感するよ…
自分が今 生きてるんだ、って。
…だが、そんな生の実感も束の間。
突如、眼下の浮き島で爆発が起こったと思うと、
そこから飛び出して来た影が
猛スピードでこちらに飛んで来るのが確認できた。
『 くっそ、案の定だ!
『 ひ、ひいィィーッ!?
あのスピードは…
聖天のつばさの全速力よりも大分速い。
恐らく、逃げ出しても追撃は免れないだろう。
『 おっさん、誰か助けを呼んで来てくれないか!
二人で逃げたら多分、一網打尽にされる。
『 おいおい、貴様はどうする気だ!
死に役だぞ!
『 折角あんたに拾われた命だ。
無駄にはしないよ。
さあ!問答の時間も惜しい!早く!
『 くっ…!
すぐに援軍を連れて戻る!
何とか持ち堪えてくれよッ!?
『 おう頼む!
…決死の強がりで おっさんを送り出すと、
おれはイロンの注意を引きつけるべく
奴に良く見えるよう、
崖ぎわに立って剣をかざした。
『 “ジア・フラァアーイト“ッ!!
間もなく、奴の野太い声が
響き渡り始める…
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ジア・クトにィ…!
『場外負け(リングアウト)』はァ…!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ぬァァアいッ!!
奴の着地と同時に、再び地響きが起こる。
一対一で奴と対面する恐怖、そして威圧感は、
先程の比では無かった。
顔が引きつり、何故か笑みすら込み上げて来る。
『 でもォ…
さすがのボクも破壊されるかと思ったよォ!
少ォしだけ…だけどねェ!
是非お礼をしないとねェ…
そんなスリルを与えてくれた
キミにはァ…ッ!
イロンの顔が邪悪な笑みで歪む。
( さてどうする おれ。
どう生き延びる…!?
『 そ、そう簡単に行くかな?
上擦った声で応えながら、とりあえず
“ファランクス“、“不動の構え“…
密かに守りを固める準備を整えてゆく。
『 行くさァ…!
そりゃもう、簡単に…ねェッ!!
イロンが地を蹴る!
おれは素早く大盾を構えた。
『 “ジア・パァァァンチ“ッ!!
( “大ぼうぎょ“ッ!!
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
盾越しに、凄まじい衝撃が我が身を襲う。
『 ッ!!
長靴が熱を帯びて、土埃を立ててゆくのが
伝わってくる。
そのまま地を擦りながら数メートル後退した所で
ようやく我が身は踏みとどまり、
どうにか衝撃を堪え切る事ができたのだった。
歯を食いしばったままの口から、荒い息が漏れる。
『 おやァ…
ボクのパァンチで吹っ飛ばないとはァ…?
傷付くねェ…!
プライドがァ…傷付くねェッ!
息つく暇も無く。
奴は再び素早く距離を詰めてくると、
今度はその拳で乱打を始めた。
ファランクスによる守りのオーラと、
防御専念による相乗効果で
どうにか全て いなしてゆくのだが…
( おい、おいおいおいッ!?
え!?た、盾が…!
奴の拳による衝撃で、攻撃をいなす度に
我が大盾が、べこべこに変形してゆくではないか。
かくして大盾は
瞬く間に盾の形状を保てなくなり…
おれはたまらず 奴から距離を取って
腕から『盾だったモノ』を取り外し、
それを奴に投げつけた。
『 んな…ろォォッ!!
奴はそれを事も無げに払い除け、
そして勢い良く飛んでいった元・我が盾は、
近くの大岩を見事に粉砕したのだった。
『 グハァァッ!
甲羅が取れてしまったねェ亀くゥン…
それでおしまいかなァ、抵抗はァ…!?
『 うるせえ!
これから…だよォォ!
おれは叫んだ。
正直…ヤケクソだった。
~つづく~