『 うるせえ!
これから…だよォッ!
…我が商売道具である『大盾』を破壊した
ジア・イロンの煽りに対し、
精一杯の虚勢で返した おれだったが…
今まで積み上げて来た、己の
『冒険者としての経験』は、
今の状況を至極冷徹に分析していた。
これはもう『どうしようも無い』と。
逃げ出す事はおろか、
援軍が来るまで耐え抜く事すら不可能である、と…
…ジア・イロンは強い。
理不尽なまでに強すぎる。
ハナから、英雄ならぬ我が身一つで
どうにか出来るはずも無い相手だったのだ。
( だからって、このまま『折れる』のか?
諦めて潔く死ねってか?
…戦場ではまだ、
誰もが命懸けで戦っているはず。
1分でも。1秒でも…
奴をこの場に縛り付ける事に、確かな意味はある。
それに…思い出せ。
【 守りたいものを守り、
そして手前もしぶとく生き残る。 】
…それが、我が騎士の道だったはずだ。
このままここで、誓い一つ果たせず
むざむざと屍を晒すワケにはいかない。
( 諦める?
冗談じゃない…!
英雄ならぬ身…?群衆だ…?
知った事か!
生きるぞ おれは!!
どうしようも無いってんなら…
今!この場で!!
新たな道を切り拓け!!
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
いつだって…
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
いつだって、
そうしてきたはずだ!!
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
みなぎる闘志と、生きる意志が。
我が手の中で、紅蓮の戦旗となって具現する!
おれは その旗を頭上で一回転させると、
勢い良く地に打ち立てた。
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
『 “パラディン…ガード“ッ!!
いくぞォォアアッ!!!!
“鉄壁の進軍“を発動し、黒い魔剣を閃かせ、
おれはイロンめがけ全力で突撃した。
『 やれやれ、往生際が悪いねェ…!
そんな おれを返り討ちにしようと、
イロンは半笑いで拳を突き出すが…
一瞬後、その表情は、驚きの色に
変わる事になる。
我が一撃が、奴の一撃に力負けする事無く
拮抗したからである。
『 ンン…!?これは…
“不動の構え“、“鉄壁の進軍“、
そして“パラディンガード“…
この三つの特技を同時発動した時のパラディンは、
まさに動く鉄塊となる。
これが今の おれに出来る、最大の秘奥。
『 お前が暴れ回る鉄塊なら…!
おれだって しなる鉄壁だッ!!
『 何ィィッ!?
そのまま、剣と拳、拳と拳の
激しい応酬が始まった。
持てる技の全てを、全力で叩き込み、
奴の攻撃全てを打ち払ってゆく。
しかし…
一歩も怯む事なく打ち合って来る おれに、
最初こそ驚愕していたイロンだったが…
次第に余裕の表情を取り戻してきていた。
相変わらず おれが
決定打を浴びせられないからである。
『 焦っているねェ、亀くゥン…?
キミのその『絶対防壁』には、
タイムリミットがある。
そうなんだろォ?
イロンが邪悪に微笑む。
早くも、パラディンガードのカラクリは
見切られ始めている。
おれが文字通り無敵でいられるのは、
たった26秒だけなのだ。
『 その僅かな間だけェッ!
ボクと張り合えるのはァ…!
『 それが…どうしたァッ!!
だが、おれも26秒で奴をどうにかできるとは
最初から思ってはいなかった。
自暴自棄を装い、焦る気持ちを抑えながら…
猛攻を仕掛ける その裏で、奴の一撃一撃を
どうにか見極めようとする。
( 奴の攻撃は重いが、
あのラダ・ガート王の剣よりも疾いか?
いや…そんな事は全然無い。
落ち着け、思い出せ…
一度だけ“王牙衝“を見切った、
あの時の感覚だ…!
あの感覚をモノに出来なきゃ…
おれは…確実に死ぬ!
…そう、この26秒は覚悟を決める為の時間だった。無論、死ぬ覚悟じゃあ、無い。
…生きる覚悟。
程なくして。
パラディンガードの防壁は、無情に潰えた。
それを確認し、拳を振りかざしながら
邪悪な笑みで顔が歪んでゆくイロンを前に、
おれは剣を引いて、静かに目を閉じる。
『 ようやく諦めたかい?
ま、下等種族にしちゃあ、
良く頑張った方だよォ、キミはァ…
じゃ、そゆわけで、さよならァ…!
かくして、ジア・イロンの剛拳は
奴の勝ち誇った笑い声と共に、
おれ目掛けて振り下ろされたのだった。
~つづく~