『【消える】って…それは、
死んじまうってことかい?
…天使のおっさんの言葉の選び方に
なんだか妙な違和感を感じたので、
それを率直に質問にしてみる。
『 いいや…ふむ、そうさな、
…どこから語ったものか。
それを受けて 彼は腕を組んで、
思案するように短く唸ったのだった。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ザラよ。先の戦で、貴様が己の剣や拳に纏わせて 使ってみせたと言う そのチカラは…
【創生の魔力】。
…おそらく、それ そのモノだ。
『 創生の魔力…
【創生の魔力】【創生のチカラ】…
旅をしていて、そういった単語を聞いた事は
何度かあるが…
『 実は、それが具体的には
『何』なのかは、
イマイチ理解できてないんだよな…
苦笑いで後ろ手に頭をかく おれを一瞥して、
おっさんは呆れ笑いした。
『 創生の魔力とは。
【 森羅万象の根源たるチカラ 】。
神や天使、人…動植物といったあらゆる生命は
当然の事。
果ては 命持たぬ その辺の石ころに至るまで… 世界に存在する、ありとあらゆる物質は、
かのチカラによって形作られておるのだ。
『 万象の根源たるチカラ…か。
解るような、解らんような…
『 当然ワシや貴様も、
このチカラによって、存在を保っているワケよ。
もしそれが…己に備わった『創生の魔力』が、
完全に枯渇したならば。
その存在が、どうなるか…わかるか?
おっさんがニヤリと口角を上げて、
おれに指を突きつける。
話が繋がって、おれは あっ、と唸った。
『 そうだ。
物質に備わった創生のチカラが
完全に枯渇してしまった状態を、
【 創失 】と呼ぶ。
『創失』は、ただ『死ぬ』のとは、
ワケが違うぞ。
☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 人は死すとも、その魂は残ったりするが…
『創失』は違う。
何せ、人の魂や精神すらも、
創生のチカラによって
成り立っておるのだからな。
『 創失?すると、
魂すら消えてしまうのか?
『 そんな生やさしいものではないわ。
そうだな…例えば貴様という存在が
創失したとしよう。
そうなれば、魂を含めた貴様の全てが
この世界から消えてしまうのは勿論の事…
創失した瞬間。
貴様がこの世界に生きていたという事実。
そのこと自体が…貴様を知る者、知らぬ者…
ありとあらゆる人々の
記憶からも消え去る事になる。
『 はっ?
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 それだけでは無い。
他にも…貴様の事を綴った記録や文献も
世界から全て消失し…貴様は
『最初からこの世界に存在していなかった事』
になってしまうのだ。
『 んん!?
どういう原理でそうなるん、それ!?
『 さあ…詳しくはワシにも解らん。
何せ、創失したモノは忘却されるのだからな。
今貴様が突然、創失したとて…
ワシには知覚すらできんというワケよ。
もっとも、神々などの人智を超えた存在ならば、 創失という現象を知覚し
覚えていられると聞いた事はあるがな。
『 なんってこった…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 貴様があの戦の後、
3日間目覚めなかったのもおそらく…
創生のチカラを放出し過ぎたのが原因よ。
命の危機にあって、本来、己の存在を
維持するためにセーブしていた
『創生のチカラのリミッター』を、
無意識の内に解除していたのだろうな。
『 な、なあ、もしかして おれ、
チカラ使い過ぎて
もうすぐ消えちまうとか、あり得たりする…?
『 なあに、心配するな。
あらゆる生命は、存在しているだけで、
自ら創生の魔力を生み出し続けておる。
一気に枯渇さえせねば、
そうそう創失なんて事態にはなるまいよ。
貴様が無事、目を覚ましたのがその証拠。
『 そうか…
『 だが、コレが相当
危険なチカラの使い方というのは
理解できたろう。あまり無茶をするなよ。
『 あ、ああ…胸に刻んでおくよ。
誰の記憶からも消えちまうなんて…
なんか寂しいし、な…
なんだか、とんでも無い話を聞いてしまった…
おっさんと別れた帰り道、ぼんやりと考える。
( もしかしたら…おれにも
忘れ去ってしまった大切な存在が…
とかもあり得るワケだよな…
忘れ得ぬ人を忘れ去ってしまう。
そんな事が、本当に…?
( 創失、か。
ゾッとしないな…
~創生と創失、了~