『 ひとまず、
今日もお疲れさん!
3つの杯を合わせる音が響く。
アラハギーロの夜。
乾いた空を見上げれば、
すでに満天の星々が瞬いていた。
視線を戻せば、眼前には
火の側で回転する大きな鉄串に
幾重にも巻きつけられて
豪快に焼かれている肉、肉、肉…!
幾つかの調味料、
そして様々な香辛料に漬け込まれた
奴らの焼ける匂いに、否が応でも鼻腔をくすぐられ…たちまち我が腹は悲鳴を上げ、
双眸には爛々と焔が灯るのだった。
…オアシスに ほど近い場所にある
この大衆食堂は、日が落ちて尚、
地元の人達のみならず…我々のような旅の冒険者や、『バトルロード』帰りの
まもの使い達で賑わっていた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 よっしゃあ、いっただっきまーす!
…なんて。
ノリでフォークやナイフを
取り出しちゃあ みたが…
焼けた肉はササッとスライスされ、
お好みの具材と共に、
平たい生地のパンで挟んだり
ロールしたりして、がぶっと かぶり付くのが、
アラハチックな頂き方らしい。
試しに一つ作って、
仲間の魔族に寄越してみる。
『 あ!あたしの、
そこの豆のコロッケも入れて!
『 ほいよう。
…続いて勢い良く挙手するウェディの要求に、
おれは苦笑いで応えた。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 んー!おーいひ~っ♪
『 ふん、悪くねぇ…
豪快に頬張って、満面の笑みのエスタータ。
ツキモリも余程腹が減っていたか、
言葉とは裏腹に あっという間にたいらげて、
次にパンに挟む物を物色し始めた。
おれもとりあえず、自分用のを一つ作って
一気に かぶり付く。
『 うむ…うまい!
味もさる事ながら、
口いっぱいに広がった後、スッと鼻に抜けてゆく
このエキゾチックな香り。
故郷のオーグリードにも似たような肉料理は
幾つかあるが…香辛料の違いで
こうも異国情緒を感じるものか、と…
改めて、己が異邦人である事に染み入ってみたり。
ともあれ…
『 しっかり食っておかないとな。
明日からは またちょっとした旅になる。
『 隊商を護衛して、
エテーネ王国とやらに行くんだろ?
大して儲からなさそうな仕事だ。
仏頂面のまま料理を頬張る魔族に、
おれは杯を傾けながらニヤリと笑ってみせた。
『 ま、護衛の仕事はオマケみたいなもんさ。
エテーネに行く『ついで』のな。
『 ふふーコレよ、お目当ては!
続いてエスタータが、どこで手に入れてきたか…
一枚のチラシを取り出して、魔族の眼前に差し出す。ツキモリは、元々鋭い目を更に皿の様にして
それを眺めた。
『 あん?
『エテーネに来てーネ!
エテーネ王国、お披露目式典』だ…?
んだコレ…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 近く、エテーネ王国で、
諸王国の要人達を招いて、
大々的な式典をやるらしいんだ。
『 お披露目式典…
エテーネ王国とやらは、アレか?
新興国家か何かなのか?
ツキモリの鋭いツッコミに、
おれと吟遊詩人は微妙な表情で顔を見合わせる。
『 い、いや…?
五千年前に栄えた古代王国が…?
な、なんか…?
『 時空をこえて?最近?
大きな島ごと?転移?
してきた?ってかんじ…?
『 …ハァ…
疑問符だらけじゃねーか…
アストルティアじゃ、島やら国やら
突然湧いて出て来んのかよ…
…いつも通りの呆れ顔のツキモリに、
『エックスさん絡みの案件だ』と伝えると…
スッと諦め顔になって、
それ以上は追求してこなかった。
『 と、ともかくだ。
おそらく現地は、軽くお祭り騒ぎになるはず。
おれ達がシャイニーメロンを運ぶように、
人も、モノも…きっと大きく動く。
そうと来りゃ、でっかい冒険話にも
ありつけるかもしれん。
『 吟遊詩人も稼ぎ時ってもんよー♪
エテーネの歴史も勉強しとかないとだ。
『 ふぅん…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 それに…式典じゃ、広場で
美人の王女様が演説するって話だ。
きっとその日は、
世界史に刻まれるような記念日になる。
そんなのに立ち会えるだなんて、
そうそう無い機会だぜ。
杯を突き上げて、おれは力説する。
だが…
『 なるほど、ミーハーか。
『 あっはは!そうだね!
笑うウェディ。
そして つまらなそうな顔のまま
豆のコロッケを つまむ魔族を前に、
おれは何も言い返せなかったのだった。
『 ぐ、ぐぬぅ…!
~つづく~