オーグリード大陸、グレン領。
その南西部の、辺境も辺境。
旅空の下、赤土の荒野に吹く冷たい風が、
ここが雪化粧の山岳地帯に
ほど近い場所である事を告げている。
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
その吹き抜ける風の中に、
ひとひらの雪が混じっているのを見つけて、
寝転がったまま片手をかざし、
ぼけっと それを目で追いかけたのだが…
すぐに見失ってしまった。
『 あ…
自然と 小さな ため息がこぼれおちた。
かざしていた己の腕を枕に戻し、
ゆっくりと目を閉じる。
おれの名はザラターン。
オーガのしがない冒険者。
なのだが…
( 最近、なんだか
やる気が出ない…気がする…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
厄介なのは、その『やる気が出ない理由』が
自分でも良く解ってない事だ。
( スランプ…とは、少し違うよな…
…しばらく前に、
レンダーシア大陸の内海にある
エテーネ王国で催された
【 お披露目式 】という
式典を見物して帰って来てからというもの…
情け無い事に、おれは
ずっと…こんな体たらくであった。
別に、式典で何か特別な事が
あったワケではない。
ないはずなのだが…
( ……
…鞄から何気なく、
『記念品に』とエテーネ王国で貰った
砂時計を取り出して、太陽に透かす。
キラキラと輝きながら流れ落ちる砂を眺めていると…ふと…謂れのない『焦燥感のようなモノ』に
駆られる気がしてきた。
だが…
自分が一体何故、そんな気持ちになるのか。
己自身が、全く理解できないのだ。
こんな感覚は、これまで生きてきて、
多分初めてのものである。
( 何だってんだ、この気持ちは…
おれは何かをしなきゃいけない…
しなきゃいけない気はするんだが…!
でも何をすべきなのかさっぱりわからん…
なんっか…モヤモヤする…!
…考えても、考えても…答は出そうに無い。
砂時計をいそいそと鞄に戻し、
再び寝転んで空を眺めて
本日何度目かの ため息をついていると…
『 ……さん…!
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
『 ザラさんってばッ!!
いつの間にか、近くに来て我が顔を覗き込んでいた
仲間のウェディ…吟遊詩人のエスタータ…と
目が合って、ギョッとなる。
『 ぅわっ!いたのか、
エスタータ!
『 もーーッ!
さっきから呼んでんじゃん。
休憩中だからって、気ィ抜きすぎ!
もし近づいて来てたのが魔物なら
死んじゃってたよ、と、眉間に皺寄せ、
両手を突き出してダークパンサーらしき
威嚇のポーズを決める吟遊詩人に、
苦笑いで頭を下げる。
…いや、冗談では無く、まったくその通り。
こんな有様では、冒険者失格もいいとこだ。
『 悪い悪い、しっかりしなきゃな…!
おし、気合いを入れ直すッ!
『 うむッ!
そだ、ご飯作ったよ。
さっきの依頼で寄った集落でさ、
野菜いっぱい頂いちゃったから、
保存食袋の腸詰めと一緒に煮込んだった!
『 ポトフか!そりゃ良いな。
『 ありがたいよね。
こんな旅の空で新鮮な野菜
食べられんの!
エスタータの先導で歩き出す。
話しながら、おれはようやく、今
己が空腹であることを自覚し初めていた。
やれやれ、何は無くともハラは減る、か。
( 本当、しっかりしなきゃな…
☆ ☆ ☆
☆ ☆ ☆
河原に設営した簡易のキャンプ地に戻ると、
もう一人の仲間…魔族の魔法使いツキモリ…
が腕を組み、双眸光らせ、
首を長くしながら鍋の番をしていた。
『 遅いぞ。僕のカブが
煮詰まるだろうが。
『 わ、悪い。待たせた。
好きなんだな、カブ…
『 さあ、食お!
食べて元気だそっ!
何せ、今度の あたしらの目的地は…
果ての大地!
『異世界』なんだからっ!
~つづく~