河原のキャンプを引き払い、おれ達は一路、
グレン領を更に南西へ、
ガートラント領の方角に向けて進む。
ひとまずの目的地はー…
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
【バカン山道】と呼ばれる、
知る人ぞ知る山道である。
グレンからガートラント方面へ旅をするなら、
その道程は大まかに、二つのルートに分けられる。
一つは、グレン領を南東回りに進み、
ゲルト海峡、そしてランドンフットを抜けて
ザマ峠へと至るルート。
そしてもう一つが、
グレン領をひたすら南西に進み、
このバガン山道を通ってザマ峠へと抜けるルートだ。
一般的には前者の方が圧倒的にポピュラーで、
魔物の脅威も少ないため、旅人やキャラバン等の
人通りも多い、比較的安全なルートと言える。
対して後者は凶悪な魔物達がひしめく難所、
グレン領・西部を経由しなければならない事もあって人通りもほぼ無い、危険なルートとなる。
故に現在では、この山道の存在自体、
知る人も少ないようだ。
現に、古い文明の跡が残るこの岩山の道は、
近年整備された形跡もほぼ無く、
荒れ放題となっていた。
さて、おれ達が、なぜ敢えてこんな
へんぴな場所を歩いているかというとー…
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
この山中に そびえる古代の遺跡…
【 バカンウグレ遺跡 】こそが、
件の目的地だからである。
『 すごいオーガっぽい響きだよね。
バガンウグレ!言葉の意味は?
…拾った枯れ木の枝を
こちらの口元に向けてくる吟遊詩人の質問に、
おれは物知り顔で腕を組んで鼻を鳴らした。
『 知らん。
『『 知らねえのかよ。 』』
『 知らんが口に出して言いたい響き。
バカンウグレ。
『 バカンウグレ!
『 ……
…おれ達がその遺跡を目指す理由は、
数日前に遡る。
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
“ 【異世界】…だって? “
“ そ、異世界!
前の戦いの時にさ、
オーグリードのバカンウグレって遺跡に、
ジア・クトの舟の残骸みたいのが
落ちて来て…
それがなんと、
異世界への転移装置だったって!
ここ何日か引きこもってた
ザラさんは知らないかもだけどさ、
エテーネ王国の式典の後、
ガートラントとドルワームの連名で
調査団が派遣されたんだよ。 “
“ 異世界っつーと、あれか?
こう…パラディンが居ない異世界に転生して、
くそでかい竜とかの攻撃を大防御で
無傷で防いだら、現地の人が腰抜かして…
『あ、おれ…なんか…やっちゃいました?
(ドヤァ…)』
ってなるヤツ? “
“ お前の頭ン中が異世界かよ。“
“ そーだよ、吟遊詩人が居ない異世界に転生して、
あたしの詩で『全現地の人が泣いた!』
ってなって!
『あたし…なんかやっちゃいました?(てへっ☆』 ってなるヤツだよ!!
“ そのセリフ、
言わなきゃいけねェ決まりでもあんの?
それになんで転生する前提なんだ。
いっぺん死ぬのかそりゃあいい!
馬鹿は死んでも治らねェって言うけどな!!“
“ ははは…こりゃあまた辛辣だ。“
“ ま、冗談はさておき!
その異世界は、神話に出てくる
【とこしえのゆりかご】だって噂もあんの!
…興味あるよね!ねっ! “
“ とこしえのゆりかご…!
天星郷の…女神ルティアナの…
遥かなる故郷、か。 “
“ おい…
興味本位だけで首突っ込むってのか? “
“ なぁ~に言ってんの。
あたしら冒険者だよ!
『それ』が一番でしょッ!!“
“ ……!
……そうか。そうだな!
よし、行ってみるか、異世界!! “
“ そーこなくちゃ! “
“ はぁ…お前らは…
また金にもならねえ事を… “
☆ ☆ ☆
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☆ ☆ ☆
『 お、見えて来たぞ。あれが…!
『 バカンウグレ!
…かくして。
異世界…とこしえのゆりかごの噂と、
エスタータの言葉に。
錆びつきはじめていた『冒険魂』を刺激されて、
おれは新たな冒険へ…
未知なる大地と旅立つ事に決めたのだった。
( いつまでも気分が晴れないなら…
自力で晴らすしかないよな。
よし!冒険だ。冒険をするぞ、おれはッ!!
~つづく~