宿を出て、宴の準備で物を運んだり、
簡単な治癒呪文での怪我人の手当てなどに
勤しむうちに…
気付けば、いつしか空にはゆっくりと
夜のとばりが降り始め、
アマラークの街は、しだいに不思議な形の街灯と
賑やかな喧騒で彩られてきていた。
宴の晩の始まり、というやつだ。
人の流れに乗って、おれはぼちぼちと
中央広場へと歩き出した。
しかしー…
昼間改めて街を歩き回っていて気付いたのだが、
この国の街並みは、なんとも不思議なバランスで
成り立っているように思える。
というのも…
建ち並ぶ家屋や城、城壁などは
アストルティアのグランゼドーラ等で
よく見かけるような
スタンダードな建築様式なのだが…
街灯をはじめとして、街を彩る数々の装飾や、
人々の着用する衣服等は、アラハギーロや
魔界のファラザード等によく見かけるような
エキゾチックな佇まいを見せているのだ。
その理由を街の人々が語るには、かつて
遠方の砂漠に住まう遊牧民族であった彼らの祖が、
過酷な旅の末に、タービアの肥沃な大地、そして
太古の遺跡であったこの無人の城塞都市に
たどり着き…
それを礎に国を興したのがルーツとなっているから、なのだそうだ。
『 その命からがら辿り着いた新天地が
フーラズーラ共の構えた罠…
言わば奴らの猟場だった、てのが
事の始まり、ってか。
『 だな。
ま、なんにせよ終わった話だ。
今宵は遠慮なくご相伴にあやかるとしようぜ。
道中ツキモリと合流し、
ぽつぽつと そんな会話をしていると、
件の広場が見えてきた。
宴はすでに始まっているようだ。
人々の集う中央広場には
大きなテーブルが幾つも並べられ、
その上に並ぶ沢山の皿や鍋には
実に様々な料理や酒瓶などが
ところ狭しと盛り付けられている。
いわゆる立食パーティの様相である。
さてどれから食らってくれようか。
ツキモリと二人、腹を鳴らして
相貌を光らせているとー…
『 おーい!
前方から吟遊詩人のよく通る声が聞こえてきた。
が…手を振る影をよく見ると、
いつもと格好が違うようだ。
☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 ふふー、どうよ♪
この国 伝統の
語り部の装束なんだって!
『 へぇ…
わりとサマになってるじゃないか!
『 でしょー!
ごきげんなエスタータが纏うは、
ゆったりとしたズボンにクリーム色の腰巻。
上半身は胸当ての上から短めの外套を羽織っただけの異国情緒溢れる露出多めな衣服で、
腕や額は白金の装飾品で豪華に彩られていた。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 …お前…はぁ…
街の手伝いに行ったんじゃ
なかったのかよ…逆にちゃっかり
おめかししてもらって来てンじゃねェよ…
ツキモリの、いつにも増してのウンザリ顔に、
エスタータは照れ顔で頭をかく。
『 やー、王様がさ、『是非に!』って
いうから仕方なく~♪
でさ、
『いや美しい…枕元で夜ごと
物語を聴かせてほしい程です』
とか言われちゃったりして♪
あれ、これもう実質プロポーズじゃん?
でもでも、あたしは魚子(さかなこ)…
人間とでは、禁断の…
『 おいおい…盛り上がってるとこ悪いが、
昼間、街の噂で聞いた事にゃ
あの王様、結構な遊び人らしいぞ。
誰にでも言ってんじゃないの?
『 えーッ!そうなん!?
チャラ男かーー!
見た目によらず!!
…大袈裟にうなだれて、
ため息を吐くウェディ。
話の腰を折るべきではなかったか?
…よく分からないが、
でもまあ、別に本気で
落ち込んでいるワケでもなさそうだ。
…適当に()励ましの言葉をかけて、
おれは話題を逸らすことにした。
『 あー…そういや、
クーを見かけなかったか?
どこまで行ったのやら…
一堂、辺りをキョロキョロと見渡す。
初めに『あっ』と声をあげたのは
エスタータだった。
『 あれ、あそこ!
女の子と一緒にいるんじゃない!?
『 なんだって?
『 ほらほらあれ!
赤い髪の子!
一転、吟遊詩人はワクワク顔で目を光らせた。
まったく…忙しい奴だ。
☆ ☆ ☆

☆ ☆ ☆
『 わあっ、アマラークの
コーンポタージュって、
うす紫色なんだ!ふっしぎ~♪
『 えっ…紫の…コーン…?
『 どんな味がするのかな?
いっただっきまーす♪
『 あっ…それって…!
『 おーいし~っ♪
…うん?どうかした?
『 う、ううん…なんでもない!
『 あれ?キミ…
キミって、
普通の人より、創生のチカラが強い…?
『 えっ…
~つづく~