引き続きバージョン2を振り返るが、個人的にグランゼドーラに起きた事件はややこしい。大魔王がアストルティアにやってくると王家に勇者が生まれる。このシステムに挑むべくレンダーシアに現れた大魔王マデサゴーラさんは、過去のドラクエにもたまにいるちょっと愛すべきタイプのヒトだった。
彼の目的はもちろんアストルティアを手に入れることだが、自称芸術家だった彼はまず最初に自分好みのレンダーシアを創造するコトを思いついた。そしてニセモノ(真のレンダーシア)と入れ替えちまえば彼はレンダーシアの支配者どころか創造主になれる。この突拍子もない考えは、スケールのでかさという点においてはガイエスブルク要塞にエンジンをつけて動かすくらい見上げたもので、彼の部下もさぞ感心したことだろうと思う。
「あいたくちが ふさがらない という たぐい だがな」
だからニセモノの世界を滅ぼすために魔王軍が侵攻する、って結局そうなるのかよ!とも思うのだが、幸い彼の部下は優秀だったからアラハギーロでは軍隊を壊滅させて、グランゼドーラでは勇者を生む王族の若者を仕留めてみせた。切り立った海側の断崖を背にした難攻不落のグランゼドーラを、陥落寸前まで追い込んでみせた彼らの実力はホンモノだ。
だがここで魔王軍はグランゼドーラを陥落させずに撤退してしまう。
理由は分かる。最終的にはソーラリア峡谷のようにするつもりだから、勇者さえ倒せば多大な犠牲を出して城を陥落させなくてもいい。グランゼドーラ王家が絶えたわけではないが、いまから王様と王妃様が子作りにはげんでも新しい勇者が生まれ育つ前に世界は滅ぶだろう。ツメが甘いといえばそれまでだが、彼らだって部下の血を無駄に流したくはないに違いない。なにしろモンスターが集団戦に弱いのは、アストルティア防衛軍に日参しているリクオイズフレンドに聞かずとも分かる。たぶんアラハギーロの勝利でも、モンスター側にけっこうな被害が出ていたのではないだろうか。
戦いの目的を達成したら深追いせずに兵を退く。すぐれた指揮官でなければできないことだ。さっそうと凱旋した魔元帥ゼルドラドだが、大魔王様はいたく不機嫌であらせられる。どうやらマデサゴーラさんは、自分が創造している最中のレンダーシアの出来栄えがお気に召さないようなのだ。そしてこれを解決するには「創生の霊核」とやらがもっと欲しいよと言いだした。
ここからは創生人間さんの説明から推察する。ある日ある時、ダーマ神殿の近くにある光の河からマデサゴーラさんがやってきた。彼は世界征服に乗り出す前に、エテーネの島にある創生の渦を見つけた。見上げると、空に浮かぶ奈落の門から落ちてきたモノらしい。それはただのカケラだが、ためしに触れてみると大陸ひとつを創造することができた。このへんちょっと自信がないのでもう少しどこかに情報がないかと思うのだが、つまりマデサゴーラさんにとって空に浮かぶ奈落の門は、コサックシープの子供がショーウインドウ越しに眺めるトランペットのようなものなのだろう。ぷーぷぷー。
もう一つ。ソーラリアへの浸食で分かることだが、世界を入れ替えるにはレンダーシアを守る神々の緋石が邪魔になる。これを壊すには勇者の力が必要だが、マデサゴーラさんが創造してみた勇者は勇者の力を覚醒することができなかった。勇者を創れば勇者の力があるに違いないとか、どうも彼は物事の表層に囚われて本質を見ないきらいがあるようで、それはエテマメを殺したネルゲルの姿が恐怖の化身だと勘違いした件からもうかがえる。たぶん彼はすげー見事な作品を描ける一方で、タマシイがこもってないとか評されてしまうタイプなのだろう。
「じゃあグランゼドーラ王家の者を操って緋石を壊させよう。こんなことを考えるなんてワシ天才!」
行き当たりばったりだが、確かに前向きに解決策を考えているには違いない。本当にこのヒト、綿密な計画とか深謀遠慮なしに勢いと感性で動いているのだろうと思わせるが、優れた部下に推進力を与える神輿としては立派な大魔王だった。勇者が世界を守るシステムならば、勇者が世界を守ろうとしなければ覚醒しないんじゃないかとか、まあマデサゴーラさんがそんなことを考えるワケがないからニセモノさんには気の毒である。
そんなわけで、シロウズだかクロウズだかに案内されて、やってきた当時のグランゼドーラの状況はなかなかわけが分からなかった。城は意外と健在で、勇者は覚醒しないことを気にしていて、町の噂に上がるくらい恐れられている大魔王が何を考えているのか分からない。そりゃあそうだろう、いくらぶいんぶいんの賢者ルシェンダだって、行き当たりばったりの思考を読むなんて不可能だ。そう考えるとスケールがでかくて行動が読めないマデサゴーラは、やはり恐ろしい大魔王だ。
ぷーぷぷー。