古代エテ王国は、時渡りと予知と錬金術で奇形的に発展した野蛮人の集落だ。それはマメミムとシンイと姉ミムメモの能力だけど、こんなものでひとは誰も救えない。もっとたいせつなことがある。エテキューブによる時渡りの物語は、マメミムたち三人にそれを知らせるものではないかと思っている。
現代と過去と、未来の世界に足を踏み入れた。
そしてほぼ確信した。
世界に唯一絶対の時間は存在しない。過去と現在と未来は連続していない別の場所だ。現在を変えることで未来に影響を与えることができるけど、すでに起きたことは変わらない。これがたぶん、この世界における時間の原則だ。
ミムメモは、エテ村を滅びから救うためになんどもそこに行こうとしたけどどうしてもできなかった。空想科学であげられる「もしも自分が過去に戻って自分をころしたらどうなるか」というパラドックスへの答えは「そんな事実は存在しないから不可能だ」になるだろう。ウルタ皇女やグルヤンラシュと同じく、ミムメモもそれに気がつかずに不可能を追い続けてる。
そしてエテ王国と同じ過ちを犯せば、世界は滅びへと導びかれる。
未来世界アルウェーンは、そうして滅びた世界だった。それはナントカ獣が勇者と盟友すら呑み込んだからじゃない。第二次ゴフェル計画が発動されて、ひとびとがアストルティアを捨てたからでもない。種族や指導者たちがことごとく倒れたからでもない。止むに止まれぬ事情があったとしても、アルウェーンがエテ王国的な過ちを犯した結果、世界は滅びていった。
唯一絶対の正解によって支配された、誰も何も考えない世界。
それがエテーネでありアルウェーンだ。
プクランドのテーマは「笑いで人を救えるか」らしい。それは旅芸人パノンを象徴する言葉だけど、ほんとうにこの世界に伝説の旅芸人パノンがいるとは思わなかった。彼はおもしろい冗談や、くだらない冗談でひとを救うのではなく、人々に笑顔をもたらすものが世界すらも救うと説いた。でも滅びた未来に届けられたメッセージはそうではない。笑顔がもたらされた世界を見せて、パノンの芸にプクリポたちは「それだけかーい!」と呆れ返った。それが世界すら救うのだ。
「いやそれおかしいよね!?」
理不尽に疑問を突きつける。それがエテ王国の過ちで滅ぶ世界を救う方法なのだろう。アバさまの予知に誰もが従い、ドミネウスの指針に誰もが従えばエテーネは滅ぶ。クォードは王を止める途中でそれを諦めた。ウルタ皇女はグルヤンラシュを断罪したことで、滅ぶ寸前の帝国を止めることができた。アルウェーンに必要なものは複製体でもプクラスでもない。
ナントカ獣から逃れた、ゴフェル計画の宇宙船でプクラスが生まれた。
プクラスは、王者が災厄の王に敗れた世界に飛ばされた。
たぶんプクラスがゴフェル計画を発動させた。
ナントカ獣を倒すための装置と石版を、プクラスは世界に残した。
過去と現在と未来は連続しない。年代を考えずにプクラスの生涯を順番に並べてみれば、これらが何も矛盾していないことに気づく。つまり時間は絶対的なものではなく、個人が存在している座標にすぎない。そのための方法さえあれば、いますぐ別の大陸に行くことができるように、5000年前に行くこともできる。たんにマメミムの想像にすぎないけど、これで世界と時間のなんたるかが解釈できると思っている。
じゃあこれから「お前たち」はどうするの?
その答えはすでにある。クォードができなかったことを、忠臣ファラスは示してみせた。我が主に対してさえも、それが過ちであると思えば我が身を賭して止めることを厭わなかった。それで生涯を終えることに価値があるんじゃない。理不尽に疑問を突きつけて抗うこと。人々がそれを忘れたときに、エテーネは世界を滅ぼすだろう。
エテ王国のひとたちは、果たして答えを出せるだろうか。メレアーデや王宮のひとたちにはあまり期待をしていないけど、彼らに期待をしてはいけない。そして彼らも、たぶん自分たちが「プクラス」になるべきか決断を迫られることになる。
予知に溺れたとき、ひとは予測をすることすら怠るようになる。
錬金を万能の御業と誤れば、ひとは平然として禁忌を侵す。
時渡りが過去を変えると勘違いすれば、ひとは現在を蔑ろにする。
なにもここまで見せつけなくてもいいだろうと、「クリエイター」の悪趣味を疑いたくなるけれど、たぶんこれが世界を救う方法で、ずっと救われずにいる兄弟姉妹に差し伸べられる手だ。まだVer1すら始まっていない、主人公と兄弟姉妹のプロローグに繋がる糸がようやく垂らされたと思う。
いつかミムメモに、このことを伝えたい。