唯一絶対の時間は存在しない。過去と現在と未来は連続しない別の場所にある。時間は不可逆で過去に起きたことは変えられないが、現在を変えれば未来に影響を与えることができる。それがこの世界における時間の原則だから、滅びの未来を回避する方法は「現在を変えること」だけだ。
すべては「彼」が人間に時見の力を与えたことに起因する。
時代を経て、時見の力を持つエテーネ王族の中に、時見の力とそれを記した指針書の存在に疑問を持つ者が現れた。彼は始祖キュレクスの時見の力に頼らぬことに、始祖ユマテルの錬金術の力に溺れぬことに、初代レトリウスの王家に盲従せぬことにもう少しでたどり着くことができた。それがクオードだった。
幼いまま、時を飛ばされた彼はウルベアで取り返しのつかぬ罪を犯した。己の欲望のままに国を滅ぼして処断されたクオードは、すべてが手遅れになったあとで、生き残ると王族がすべていなくなったエテーネに帰還した。彼はエテーネを滅びから救うために尽力しながらも、ことあるごとにこれが最後の仕事だと言っていた。
エテーネを滅びから回避したら、クオードはしぬつもりだったろう。
だから彼は絶望した。滅びの運命から逃れられるまで、クオードはエテーネを助けなければならない。それが永久に続くなら、彼は永久に断罪されることがない。心折れかけた彼が姉に叱咤されて、人々が指針書に従わずに戦うことを選んだとき、彼は王家が崇拝した時見の箱を「エテーネの歪み」と名指しして剣を突き立てた。
許されぬ罪を犯した者は、決して許されてはいけない。
たぶん、彼の姉だけがそのことを理解していない。時間は残酷で、クオードには罪を犯す時間を与えたが、メレアーデには成長する時間を与えなかった。たぶん彼が望んだのは、赦してもらうことじゃない。正しきを認めてもらえればそれでいい。
ファラスは言っていた。クオードのやったことは許されることではないと。
ディアンジやザグルフは言った。自分たちがクオードの意志を引き継ぐと。
マメミムも言っておこう。
クオードは国を滅ぼして主君をころしたけど、エテーネを救ったのもクオードだ。
だからおまえは安心してしねばいい。
すべては「彼」が人間に時見の力を与えたことに起因する。
過ぎた力を手に入れた人々が、やがてルルルリーチのように歪んでいったのは彼のせいじゃない。だけどそれに気づくことができなかった「彼」にとって、キュレクスとキュロノスとキュルルは同一人物だ。人間の感覚では彼らはみな別人だけど、彼にとっては多面性のあらわれでしかない。
憎悪に溺れたキュロノスが、すべての人間が滅びた未来を望んだことを、キュルルは自分のせいだと考えただろう。だから彼は時渡りの力で因果律にすら干渉しようと試みたときに、もう一度原因までさかのぼってしまう危険は伝えたけれど、それで彼自身がどうなるかという危険にはひとことも言及しなかった。
健気だし、別におまえのせいじゃないとも思う。
このとき、ああキュルルも無事じゃすまないんだねと思ったけど、マメミムは気づかないふりをして「やれ」と言うだけだった。もう一度キュロノスが訪れるなら、何度でもぶんなぐってあげるから、おまえはおまえにできることをすればいい。それでしぬならしねばいい。
プクラスが託したように。
パドレが託したように。
自らのクローンが消費される社会を作り出したことも、時見に騙されて兄をころしたことも赦されることじゃない。だけど彼らは罪から赦されなかったとしても、未来を救うために手を尽くして、それを人に託すことができた。それを堂々と誇ればいい。
赦されぬ所業をやらかしたとしても、それで功績が否定されることはない。
しんじゃうよりも生きていたほうがいい。でも魔法のペンの力で、すべきこともわからぬまま時間だけが費やされるのは生きているとはいえない。赦されない行為だったら報いを受けるだろうし、賞賛されるべき行いなら胸を張ればいい。
それが、世界だけが救われた時点でのマメミムの感想だ。
クオードがエテーネ人たちを指針書から解き放ったことと、キュルルが「彼」の葛藤を解決させたことに、堂々と胸を張ればいい。グルヤンラシュが国を滅ぼして、キュロノスが世界を滅ぼしたとしても、それできみたちのしたことがなくなるわけじゃない。
エンディングが流れても、スタッフロールが流れてもまだつづきがあるようだ。ひとつでもハッピーエンドが見つかればいいなと思いながら、もう少しVer4の世界を旅してみようと思う。