1000年前に不死の魔王ネロドスが討たれたとき、盟友不在の勇者を助けたのが時渡りマメミムだった。魔王軍の残党ラズバーンはネロドスの不死の術を用いて冥王ネルゲルを生み出す計画を発動する。大魔王が光の河を越えてアストルティアを訪れると勇者が現れるけど、アストルティア生まれの魔王が登場しても勇者は現れない。そのための施設が移動する大魔王城レイダメテスだった。そしてネルゲルが誕生した。
ネロドスと同じように、冥王ネルゲルは死者の魂を力にする。部下にベホイムを飛ばしても、自分の傷は治さないからたぶん肉体的には死んでいる。回復するにも蘇るにも生贄が必要だけど、死者の魂がある限り無限に力を得ることができる。そのために魂を支配する縛鎖の術まで用いる無敵の存在がネルゲルだ。
唯一の不確定要素があるとすれば、それはネロドスを倒した時渡りの介入で、だからネルゲルは最初にエテ村を滅ぼした。誰が時渡りかわからないから、村ごと焼き払うとマメミムもころされた。想定外だったのは大魔王マデっさんが現れていずれ勇者がアストルティアに現れることだけど、時渡りがいない勇者なんてたぶん冥王は恐れもしない。大魔王と勇者が戦って、勝者を自分が制圧すればいい。
だけどエテ村でころしたはずの時渡りは、どうやってか知らぬが生き残ると、500年前のレイダメテスを墜として潰えたはずの破邪舟術を復活させて、生ある者には破れぬ縛鎖すら破りネルゲルを倒してみせた。何者かがもたらした生き返しによる思わぬ結末が訪れた。これがVer.1のお話だ。
10周年記念クエスト通称ゴリクエ。
世界に死者の魂がある限りネルゲルは復活する。「おおネルゲルよ、しんでしまうとはなにごとだ」と呟いたら、自分を倒した敵にふたたび刃を向ける。それが不死の術だから、レイダメテスの残骸にあったという死者の魂を集めた邪黒水晶を五つに砕いて闇のキーエンブレムに作り変えると封印した。500年前にこれをしたのは四術師だったけど、エルジュが把握していなかったのはたぶん彼らのなかに「そのほうが面白い」と考えたプクリポがいたからだと思ってる。
ネルゲルには矜持がある。
不死の術は禁忌としか言えぬくらいやばい。世界の不文律をこわすくらいやばい。魂がある限り蘇生できて、魂がしんだら蘇生できないドラクエ世界で、他人の魂を生贄にしてなんどでも生き返るのが不死の術だから、これを繰り返せばいずれ世界から魂がなくなってしまうだろう。冥王ネルゲルは魔王どころか世界を襲う災害みたいなものだった。
魂を糧にする不死の術と、魂あるものを支配する縛鎖の術があるかぎり、ネルゲルは誰にも負けることはない。自ら赴いてころしたはずの時渡りが自分を倒したことに、ネルゲルは驚くと同時にやはり時渡りだけが自分を倒せる存在なのだと認めたことだろう。
ネルゲルは自分が無敵だと知っているからこそ、時渡りを倒すことで自分がほんとうに無敵だと証明することができる。大魔王も勇者もネルゲルにとって大した存在じゃない。闇の根源が彼に力を貸すなら借りてやらなくもない。ネルゲルが思いのほか正々堂々としているのは当然で、「この中に時渡りの末裔がいる」エテ村を滅ぼしたあとの彼にとって、マメミム以外の存在は気するほどの相手じゃないからだ。
だから復活したネルゲルはでしゃばった部下がマメミムを縛鎖で封じるなどという無粋を許さないし、闇の根源の力を借りた冥獣王に勝る力でマメミムを倒そうとする。光も闇も関係ない。いいか悪いかなんて知ったことじゃない。無敵のネルゲルが、ネルゲルを倒せる唯一の力をねじふせることができるかどうかは、彼の存在意義そのものだ。
すげーめんどくさい存在だけど、妥協も説得も必要ない「敵」だから迷う必要がない。
実はいいやつだったとか、彼にも言い分があったとか、彼こそ犠牲者だったとか、そんな言い訳が必要ない。ネルゲルは倒さなければいけないから倒す。ネルゲルも時渡りマメミムを倒すことを望んでいる。むつかしく考えず、興奮したごりらのように殴りあえばいい。
この背景で。
オーブ集めの日課で戦う強戦士ボスたちが、こいつらほんとは強いのに力押しで勝つのはもったいないよなあと思わなくもない。みんなLv99にすればなぐるだけでゾーマに勝てるのがドラクエだけど、じゃあゾーマがLv99あったら勝てるのかなあと思わなくもない。
こいつらもっと強くしてくれればいいのに。10周年記念クエストはささやかな願いを叶えてくれた。かつての強敵が強敵として蘇る。避けられる攻撃は避ける。つうこんには会心ガード。耐性よりもキラポンを欠かさない。うっかり指ぱっちんされてこんな攻撃があったー!と思い出すのも愛嬌だ。
冥獣王よりも強い冥王ネルゲルを倒すために、あのとき走ったレイダメテスを走る。