魔界大戦に携わった三国でも圧倒的に弱いのがバルディスタ。魔王ヴァレリアひとりがケタはずれに強いだけのチリメンザコたちの集まりだ。彼らが弱いのは当然で、強ければ正しいバルディスタでは、強くなるよりもなかまを陥れたほうが生き残れるからに他ならない。ゼクレスもファラザードもたぶんそれを知ってたから、最初にバルディスタを陥れようとしたのだし、おたがいを出し抜こうとしなければバルディスタだけが崩壊して、三国共倒れの結末には至らなかったろう。
マメミムもベルトロも見誤っていた。
魔王ヴァレリアはバルディスタの弱さを知りながら、どうしたらいいかわからずにいる甘ちゃんだと思ったけど、そもそも自分たちが弱いことにも気づいてない脳筋さんだった。いっそベルトロみたいなずるいおじさんが、ヴァレリアを従えたほうがよほどこの国はまともになっていただろう。少なくともベルトロなら、ジャディンの園でクエストを受けるくらいの器量はありそうだ。
ヴァレリアが消息不明になり、バルディスタは子供が泣き叫ぶ国に戻る。こんな世界を呪わしいほど嫌っていたヴァレリアが、自分の国すら変えることができなかったのは残念としか思えない。大魔王不在で魔瘴に沈んだゴーラの姿を見れば、魔界がだめなのは環境のせいではなく彼ら自身がばかなせいだと言うしかない。百年とか千年をムダに生きても彼らはなにも学ばない。
だけどばかだから滅べとは思わない。
自分よりも弱い子供をころせる狂人や、抵抗できぬ王をころせる狂人や、ヴァレリアがいなければみんなをころせる狂人たちが跋扈する。それがバルディスタという国だから、強いやつが上から抑えつけないと復興を始めることすらできぬ。オレには無理と言ってたベルトロは他の連中よりはモノが見えてるけど、こいつ絶対「面倒だから無理☆」と言ってるよねと思う。
ひどいありさまのバルディスタが、それでも崩壊しなかったのは、理不尽な現実に抵抗するひとたちをベルトロが支えていたからだ。それは立派な功績だけど、たぶんベルトロ自身はこんな面倒なことを続けるなんてごめんだと思ってるところに、お願いされれば「はい」としか答えないマメミムがやってきた。
さて。
ゼクレスとバルディスタの衝突でも、生き延びることができた者はいた。自力で国に帰った者もいた。ウェブニーは自分がたいへんなことになって、それでも「この体では谷を抜けられない」と試したくらいは帰ろうと試みた。ヴァレリアはそれができるチカラが失われた様子もないのに、これさいわいと逃げるつもりでいた。ひとめ見たベルトロが「ふぬけた」と言ったのも無理ないが、別に彼女はふぬけたのではなくて何も考えてないだけだ。
自分のいないバルディスタが阿鼻叫喚の地になってるなんて考えてもいなかった。親切なトポルの村人が、ヴァレリアのせいで争いに巻き込まれるとか考えてもいなかった。ヴァレリアは確かにいいひとだけど、一千年も生きてこれはさすがにどうかと思う。けっきょく彼女はなにもせず、ベルトロに呼び戻されて城に帰ったというだけだ。それでトポルが危険にさらされることも承知だったベルトロには、是非を問うてもしかたないから「ごくろうさま」と言うしかない。
弱い子供たちが戦乱に巻き込まれてしんでいく。そんな世界で育ったヴァレリアが建てた国は、弱い子供たちが戦乱に巻き込まれてしんでいく国だった。彼女が重用した部下が子供たちをみなごろしにして、彼女の目が届かないところで子供が親を呼びながら泣いていた。
「考えなおす必要があるのかもしれぬな」
現実から目を背けていたのではなく、現実に気がついてすらいなかったのだとすれば、彼女こそ太古の魔人と変わるものではない。強ければ正しいなら、ただ強いだけの災害めいた存在すら正義になる。こんな魔王のせいでバルディスタでは多くのひとがしんだけど、ころしてまわったマメミムがえらそうに言えることはない。
愚かさの末に阿鼻叫喚がこだまする国が残されて、それでも復興しなければならぬという自覚が、さて彼女にはあるのだろうかと思う。変わらなければ永遠に手遅れだけど、どんなマイナスからでも変わればそこから進むことはできるだろう。だけどマイナスからゼロになるくらいの成長では、しんだひとたちが浮かばれない。
クシャナ殿下にはなれそうもないヴァレリアだけど、マメミムはお願いされれば「はい」としか答えないつもりでいる。