強いものが弱いなかまを陥れることで生き残るバルディスタ要塞は、ベルトロがもういちどヴァレリアを担いでやりなおすことにした。世継ぎがすべての責任をママに押しつけていたゼクレス魔導国は、頼りないアスバルをリンベリィが支える体制で再建の道筋が立てられたように見える。魔界にいるのはアストルティアと変わらぬひとたちで、ばかな魔王たちが治めるばかな社会がひとびとを苦しめていただけだから、なんとかできる人材なんてそこらに転がってるだろう。
魔瘴なんて関係ない。ばかだから大戦が起きてひとがごろごろしんだ。
ファラザードはもともとなんとかできる人材が生きていくことができる国だから、ばかでひとごろしの自覚があるユシュカが反省すればこれからもっとマシになる。そのユシュカがマメミムに言った。
「お前が大魔王になれ」
「なってくださいお願いしますはどうした?」
などという返事はしない。無精髭を生やした魔界のヒロインは、だいぶ成長してるけどあとちょっぴり惜しいところでわかってない。
この世界における肩書きは2種類存在する。ナドラガンドの解放者は神々じゃなければ誰でもよかったし、プクレットの名誉審査員は村人じゃなければ誰でもいい。大魔王だってばかじゃなければ誰でもよくて、王様でもなんでもやりたいやつがやればいい。さすれば直訳で歌えもするし、大魔王の装束とプクレットのふかふかな衣装に本来違いはない。
肩書きのもうひとつはマメミムがこれまでたどった道。誰かにとっての何かであることの積み重ねだ。アンルシアがいう私の勇者様も、ヒストリカイズフレンドがいうズッ友も、セレドの名誉子供の称号も、ほかの誰でもないマメミムに贈られた肩書きだ。
肩書きとか称号そのものに価値はない。それを贈られた行動や結果に価値がある。
ヴァレリアやアスバルに比べれば、ユシュカは視野が広くて気宇が大きいからけっこう本質的なところを掴んでる。こいつには「ユシュカが考える大魔王」の姿がはっきり存在する。いくつもの国を統べる皇帝的、大統領的な存在が彼の大魔王像だ。
正確に評価できてる自信はないけれど、ネロドスは総司令官だしマデサゴーラは創造者だからユシュカ的な大魔王はよほど統治者にふさわしい。彼がこっそり建築していた大魔王城も、プールつきカジノのアイデアを退けて「大魔王府」のような行政施設にしたのがいかにもユシュカらしい。ファッションセンスが壊滅的に悪いだけで、こいつはけっこう現実的で地に足がついている。あのプロレスラーみたいなベストとか、死神スライダークでもしないようなグローブとか捨てちまって、ナジーンみたいに髪をなでつけてヒゲを剃って襟をしめれば素材は悪くないのにと思う。
マメミムが魔界を訪れて、なにがたいせつかをわかってるやつは二人いた。ひとりはヌブロ長老で、もうひとりは魔仙卿そのひとだ。魔仙卿はわりとばればれの正体を明かしたあとで、頭をさげるとマメミムにこう言った。
「魔界とアストルティアを助けて」
おひとよしでおせっかいのマメミムには、それだけ言ってくれればいい。マメミムは「はい」と答えるし、ついてくるイルーシャのようなやつも現れる。いっしょに魔界を救ってくれ、助けに行きましょうと言えばいい。お前の声がかれないかぎり、救いは必ず訪れる。俺は必ず駆けつける。英雄はすべてを救うのだから、マメミムが迷うことはない。
こまってるひとを助けるのに、肩書きもはずかしい衣装もどうでもいい。大魔王なんて誰がなってもいい。魔界を助けるためにチカラを貸してくれと言えばいいのだけれど、魔仙卿からのクエストに「はい」と答えたマメミムは、どれだけ時間がかかるマメの歩みであったとしても放り出すつもりはない。
歩きつづければいつかはたどりつく。それをなんて呼ぶかは呼びたいひとが勝手に呼べばいい。
少なくともVer.2の終盤から、マメミムの歩みは兄弟姉妹の足跡をたどる旅だった。滅びたエテ村でしぬかわりに、時渡りの呪いで飛ばされちまったミムメモは、ナドラガンドで彼女の妹を助けようとしながら、彼女が出会うひとびとを助けてまわり、そのひとたちはやがて集まって村ができるほどになった。
彼女が時渡りの呪いに追いつめられていく姿は、時獄でのわずかな出会いで知ることができた。時渡りは未来にも過去にも行くことができるけど、時渡りがすでに遭遇した時間をつごうよく変えることはできぬ。滅びたけれど滅びなかったエテ村を見つけられなかったミムメモは、やがて足の踏み場もなくなった時間のどこにもいることができなくなる。
そして時渡りも予知も錬金術も万能ではない。ただチカラに溺れたものには「闇」が待っている。