偽ココラタの浜辺で彼らを目にしてから、こいつらはIX世界の天使ではなくてIV世界の天空人に近しい性格をしていることは知っていた。レンドアの空でパルミオとふたり撃ち落とされて、ユーありのままでゴーしちゃいなよの演説を聞かされて、ハリボテのフォーリオンを案内されると、羽つきどもの生態も徐々に知れてくる。天使を模してつくられたできそこないの有機体。いまのところそれが彼らに対するマメミムの評価となっている。
食事も睡眠も不要で、体が臭くなることもない。
こいつら自身はさもすばらしいことのように語るけど、これは羽つきどもが代謝も成長もしない生物未満のできそこないであることを示してる。一方で尋常ではない恒常性維持機能があって、ヘアスタイルを変えても強いチカラで戻っちまうというほどだから相当だ。たぶん彼らは傷ついても自動で修復するし、疲れても自動で修復する。代謝と回復を繰り返して成長することがない。代謝しないから汗もかかないし垢もでないし排泄だって必要ない。食事のまねごとをしてクチから呑み込んだモノは消化もされずにそのまま出てくるだけだろう。だから彼らは臭くない。
しんかの秘宝ならぬしんかの儀が失敗して、それでもひとごとのような彼らの態度はハーゴンの審判が失敗したときの無責任さそのままだ。自分たちはカミサマに祝福された特別な存在であるとの意識だけはある一方で、自分たちができそこないの存在であることには気づいてすらいない。できそこないが集まる社会はまるごと狂気に満ちている。
フードデリの家に興味深い記述がある。
彼女自身を含む数人の例外こそあるが、総じて羽つきは味覚がないかきわめて弱くて、アストルティアの料理をどれほど再現しても甘味も旨味もなにも感じない彼らから好ましい反応を得ることはできなかった。いっそのこと味を思い切り強くしても事情は変わらなかったのに、辛さだけは認識できた。ごりら長ミトラーは辛さ100倍で、チンパンの羽つきアカンティスはぐつぐついう煮え湯を呑むのがだいすきだと書かれている。
マメミムは考える。ほとんどの羽つきに味覚はない。痛覚だけは危険回避のために備えていて、しかも過酷な環境で生きるために極めて弱い痛覚になっている。人間ならしぬような熱湯を流し込んでも恒常性維持機能で修復されるから、本来食事の必要がない彼らは刺激を楽しむために食事のまねごとに手を出してるのだ。しなないからバナナをまるのみして喉につまらせてもミルクで流し込めという。苦しむさまを楽しむフードデリの姿はサイコさんそのものだけど、じつは彼らは苦しんでいないのだということに気づくとぞっとする。
スライム好きのアカンティスが彼らにトレーニングを強いるのも、鍛えても成長しない羽つきに比べて成長するスライムがかわいく見えるからではないか。アルウェーンで崩壊したクローンがドロヌーバめいた姿になるさまを覚えてるけど、不定形の有機体を天使に似た姿にこねくりまわして人間のタマシイを詰めこんだらこんないきものになるのだろう。IX世界の記憶がある身としては、こいつらを天使だと思ったことはいちどもない。輪っかがあるぶんエンゼルスライムのほうがまだしも天使に近い。
人ならぬ人を創造する。
創造主マデサゴーラが試みた創生人間たちは、できそこないの羽つきどもよりもよほど人間だ。メルサンディでもセレドでもグランゼドーラでも彼らは食事も生活もしているし、ザンクローネが真メルサンディのパンを食べて、セレドの子供たちが変わらず暮らしていると思えば人間と変わるところはない。生命のあがきを描いたマデサゴーラが、できそこないの羽つきみたいに変わることもしぬこともないイキモノモドキを創造するはずもない。
かつて天使たちが暮らしていた都市は滅びてフタをされている。はりぼての都市を徘徊する羽つきどもは、異界から訪れたメーダのような生命が羽つき人間めいた姿をしているだけなのか、誰かがこねくりまわしてつくりあげた頑丈なだけの器にタマシイを詰めこんだものなのか。
この世界における人間の本質はタマシイだから、器がどんだけできそこないでもそれは人間の一員だ。
だけど人間のなんたるかを忘れたタマシイはもはやケモノと変わらない。