以前から公言しているとおり、マメミムの推しはアンルシアだ。もともとの勇者姫衣装が彼女には似合うから、2015年像を家具ではなく庭具で出してくれませんか!とたびたび思っていなくもない。マメミムの本職が占い師なのは、おそろいの剣と盾を掲げて彼女の背を守れるからだった。
かつてこの世界に現れた勇者たちと比べれば、未熟なところはあるけれどまじめに成長するアンルシアだって立派な勇者のひとりだろう。みんなを守りたいと覚醒して、伝説の大魔王と一騎討ちをしたアジールに比べれば劣るかもしれないけど、みんなに助けられて覚醒するアンルシアが協調する勇者としてふるうチカラはジャゴヌバすらも打倒する。みんなを守ろうとして、みんなに助けられるのが勇者姫アンルシアだ。
双子の勇者は戦いの果てに、いつしかみんなを守りたいと思う心を忘れてしまった。アルヴァンはみんなとカミルを守りたいという思いがつよすぎて、アルヴァンを守りたいと思うものがいることを忘れてしまった。氷の魔王に吹っ飛ばされる未熟なアンルシアは、もしかしたら過去の勇者たちよりもずっとチカラは劣るのかもしれない。勇者ひとりがつよくて彼女にまかせておけば世界を救ってくれるという無敵の勇者にはほどとおい。だけどそんな勇者はこの世界に必要ない。
なにもかも女神におしつけて、負けたら世界のおしまいだと叫ぶのはフィネトカの民に任せておけばいい。手をつなぐべきなかまを切り捨てて、つよい連中だけで邪神を倒しに行く英雄たちはいずれ天にも星にもなれるかもしれぬ。だけどアンルシアがひとりで世界を救って女神になる必要なんてない。レベルも職業も関係ない。きみのちからを分けてくれればぼくたちは神様にだって負けやしない。みんなを守る勇者でなく、みんなで世界を守る、そのひとりが勇者姫であればいい。マメミムはそれを手伝うことができればいい。
ほんとうは。
トーマ王子が健在なら、勇者アンルシアと盟友トーマが守る世界はいまよりもよほど盤石だったろう。王家は安泰、勇者はチカラを発揮して大魔王も邪神も寄せ付けなかったかもしれぬ。それでも訪れなかった未来は誰かに受け継がれる。アンルシアがマメミムに向けた私の勇者さまの称号は、ほんとうは彼女がトーマに向けることばだったから、恐縮してせめてそれに恥じないふるまいができたらいいなあとは思う。
ルネデリコの幻想画で出会ったトーマに頼まれた。あの子を見守ってあげてくれと。
だからマメミムが彼女を裏切ることはない。
勇者でありながら、グランゼドーラのお姫さまでもあらねばらないアンルシアはよほどたいへんだ。彼女にもしものことがあれば王家は滅ぶ。それを承知で彼女は無鉄砲に駆け出してはルシェンダにたしなめられている。トーマ王子が健在ならという、その思いはすべてアンルシア姫にのしかかるけど、彼女はまっすぐな勇者であることをやめないし模範的なお姫さまでもあろうとする。トーマ王子なら、妹にはお姫さまであってほしいと願うだろう。ほんのちょっぴりでも、マメミムが彼女の苦労を助けられればそれでいい。
そして。
たとえ世界がマメミムの敵になったとしても、アンルシアがマメミムを信じてくれることを知っている。
だからマメミムが彼女を裏切ることはない。