「ならばなぜ彼女とは協調できないのですか」
ナジーンのことばが、それまでユシュカがみんなと協調してファラザードを大きくしたことを物語っているのだけれど、それに気がつくひとは案外多くないかもしれぬ。アスフェルド学園のリソルだったら、こいつはくちがわるいだけで頼まれればはいとしか言わないおひとよしのおせっかいだと気づかせてくれるけど、ユシュカもほんとうはおひとよしのおせっかいでファラザードのみんなに慕われていた。
大魔瘴期を前に争ってる場合じゃない。ちいさな国でも部族でも助けあってなんぼだと、小国ファラザードを魔界の一翼にまで育てあげた行動力こそユシュカの協調だ。伝説の大魔王ヴァルザードの肖像が、自分に似ていたことも砂漠の国を興した理由を後押ししただろう。立派なヒゲをたくわえていたというヴァルザードにならったけど、鏡を見ても無精髭しかはえてこないことだけは残念に思っていたにちがいない。
でも正装を見るとおまえが残念なのはそこじゃない。
だからマメミムが魔界で最初に出会ったユシュカは、人を見る目と行動力でファラザードを興した彼ではなくて、威厳のある伝説の大魔王をめざしたらちょーしがくるって空回りをしてるユシュカだった。しもべのマメミムがゼクレスやバルディスタを説き伏せていく姿を見て、こんなはずではないと思っていたことだろう。おまえの大魔王像は傲慢だ、むしろしもべのほうがふさわしいと魔仙卿に言われてしまったのだから。
おひとよしのおせっかいな大魔王がいたっていい。たいせつなのは闇の根源を前にしても自分らしくいられるか。ユシュカがそれに気づいたのはすべてが手遅れになったあとだけど、気づかないよりはずっといい。
協調とはなにか。
魔界の奥底にひきこもる闇の根源は、ユシュカが唱える協調の意味を知りたがったけど最後まで答えにたどりつくことができなかった。これが協調かとやってみせたのはルティアナのチカラを利用してフォースブレイクを放つことで、すごいダメージが出たぞというのがこいつにとっての価値でしかない。闇の根源は自分自身のなかにある邪神たちを認識することはできたけど、彼ら同士ですらなかがわるかったからだれかとの協調なんて理解できるはずもなかった。
宇宙の果てからやってきたそれはルティアナの創生物をぶっこわそうとしてたから、闇の根源に向けられる意識がマイナスなものばかりになるのは当然だった。暴虐や戦禍、禁忌や嘲弄といった概念しか知らないそれは、彼が知らない概念に興味がある。ユシュカはこれを利用して、闇の根源が興味を持つ者からオレを大魔王にしろと言われれば断れないことに気がついた。相手の心理を読みとって、してやったりと裏をかいてみせるのはやはりユシュカの真骨頂だ。
竜化した大魔王の姿がエステラとそっくりなのはやはりユシュカがヒロインだ。
伝説の大魔王を思い出させる肖像をした、おひとよしのおせっかいが国を興して魔界に協調を唱えていた。あいつはともだちをつくるのがへただという、唯一の欠点を理解していたのはナジーンだったけど、みんな争ってる場合じゃないというユシュカの協調を理解して、考えることをやめるのはしぬことと同じというユシュカの行動力を理解して、あなたこそ魔界に必要なのだと理解していたのはナジーンだった。
ナジーンはユシュカの代わりにしんだわけじゃない。魔界からユシュカが失われることに比べたら、自分の命なんて惜しくなかったというだけだ。こころのこりがあるとしたら、自分がいなくなってユシュカはともだちをつくれるだろうかと心配したかもしれない。
せっかく友人にもなってくれそうな、あなたに似たおせっかいのおひとよしとやらに出会ったというのに、その彼女をしもべなどと呼んでいるのですか?あなたは本当に昔から・・・そんな言葉が頭に浮かぶ。ひとのことをてしたとかしもべとかロデムとか呼ぶやつにろくなのがいないことをマメミムは知っている。アンルシアが私の勇者さまを見つけるまでの物語。ヒストリカが兄公認のズッ友を見つけるまでの物語。ユシュカがオレのともだちを見つけるまでの物語。それでいい。
だけどともだちとして言うことがあるならば。
そのぼさぼさの髪とヒゲをなんとかしてナジーンみたいにきちんとした服を着なさいというだけだ。