「穴を掘って身を隠すなら、
そいつが自分の墓穴じゃないことを確認してからにしろ」
~塹壕戦のプロと呼ばれた、とあるドルワーム兵士の手記より抜粋
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唸り声と共に黒の巨人が膝をつく。戦いの趨勢はすでに決していた。
ナギリ洞の冷たい空気が轟音に震える。鐘の音のように反響するその音に、星詠みのサテラはピクリと肩を揺らした。
やがて彼女が顔を上げると同時に、巨人は空気の中に溶けるように消え、その黒い残光がゆっくりとサテラの瞳の中に吸い込まれていった。
己の罪を、己自身の中に取り戻した彼女が語る真実は、決して軽いものではなかった。
私が世告げの姫ロディアから連絡を受けたのは、つい先日のことだ。
帝王の足跡を探る彼女は、その手がかりが姫たちの封じられた記憶の中にあると言った。かくして姫たちの自分探しが始まり、我々もそれを助けることとなった。
サテラの過去について、すべてを記すのはやめておこう。
ただ、超然とした存在だとばかり思っていた世告げの姫が、我々と同じく非力で弱い存在だったという事実は、私には少々意外だった。
彼女は人の人たる弱さゆえに過ちを犯し、その償いのために戦っている。
そして彼女は言う。今、与えられたこの力があれば、今度は過ちを犯すことなく、人を救えるだろうと。
……そうだろうか。
彼女の犯した罪は、力の無さ以上に、安易な嘘に逃げてしまう心の弱さが招いたものだ。
その弱さを覆い隠すために、人は力を欲する。傷口を隠す包帯のように……。
未来を見通す黄金の瞳の中に、私は人の業を感じずにはいられなかった。
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さて……サテラの記憶は戻ったが、災厄の王への道は開かれていない。
そしていくつもの気になる点がある。
まず、サテラの前に現れた少年とは何者か。これが災厄の王の正体を暴く最大のカギとなりそうだが、今はまだ情報が足りない。
二つ目に、世告げの姫とは世界に災厄が訪れるたびに現れる、時間を超えた存在ではなかったのか、ということ。
サテラの話を聞く限り、彼女は最近までレンドアで暮らしていたはずだ。力と使命だけが時を超えて受け継がれ、時代によってふさわしい者が選ばれるようになっているのか?
選ぶのは誰か。謎の少年か……あるいは、別の何かか。
三つ。サテラが語った戦争について。
レンダーシアでは国同士の争いが起きていたのだろうか。だとすれば、かの地が闇に閉ざされた今、それがどう決着したのか。
行方不明となったグランセドーラの王女の件も含めて注目せねばならないだろう。
落ち着く暇もなく、ガケっぷち村のコゼットが次の姫の元へと私を案内する。
出迎えたのは、赤いリボンとピンク色の髪。幼げな容姿の"舵取り"だった。