戦いの果て、幻影が膝をつく。大きく一息。予想以上の激戦となった。真の王との戦いに向け、賢者の聖水を温存したことも一因だろうか。
だが、本当の戦いはこれからだ。
世告げの姫たちが、そしてあの少年が我々の前に現れ、その正体を明かす。
古代の王。少年。災厄の王。私の想像はそうそう的外れなものではなかったようだ。
全てを語るのはやめておこう。
重すぎる使命の果て、一つだけ願いのかなった世界で生きていく権利を得たロディアたち。
ここからは少年と、私たちの戦いである。

闇の世界のさらに奥底。
足を踏み入れたフロアーの床に静かな波紋が広がる。それは、これまでの迷宮とはあまりに異質な光景だった。
足元には水をたたえ、かがり火が水面に踊る。漂うキマイラたちと、立ち向かう戦士たちの姿が幽鬼のごとくゆらゆらと揺れる。
この世のものとも思われない、冥府の入り口を思わせる幻想的な光景は不可思議で、不気味で、そして美しかった。思わず立ち止まり、見とれてしまうほどに。
冥界の水面。その先の門をくぐり、さらなる闇へ。
次に我々を迎えたのは、滅びの町。
朽ち果てた石造りの建造物。通る者をなくした道。そして立ち並ぶ墓標。
それは古代の王が治めた国の末路なのか。それとも、帝王自身の内なる風景なのだろうか。
詳しく調査を行いたいところだが、ここは闇の世界。時間は限られている。やむなく素通りする。せめて簡易的な写真だけはおさめておこう。

やがて、半ば崩れ落ちた古城へと我々は辿り着く。
そこで発見したのは、清らかな水に囲まれた石碑だった。
刻まれたレリーフは、誰かの横顔。かつての帝王の姿だろうか。凛々しい青年の表情は、物言わぬ帝王とは似ても似つかない。
一輪だけ添えられた花が、かえって物悲しかった。誰が添えた花か。無言の石碑は何を物語るのか。刻まれた文字は、我々では解読不可能だった。

この場所にも、神話の戦いにも謎は多い。
ロディアにより語られた少年と姫たちの真実にも、まだいくつもの疑問点がある。
戦いが終わったならば、その一つ一つを探ってみるのも良いかもしれない。
そう、戦いが終わったならば。
今はまだ戦いのさなか。泉の水で喉を潤し、決戦へと備える。

かつて権威を誇ったであろう巨大な門。色あせた彫像は物言わぬ監視者として永劫の時を見張り続ける。かがり火だけが今も盛大に、より巨大な闇を色濃く浮かび上がらせていた。
冒険者たちの足音だけが、沈黙の中に響く。
だが静寂とは裏腹に、我々の体を押しつぶさんばかりに押し寄せる魔障の重圧があった。
誰もが感じていた。決戦は目の前だと。
我々は互いに頷き、最後の確認をすますと、地獄への門を静かに開いた。