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塩の大地より中天を見上げる。赤い月がぐるりと歪んて視界に入る。夜空の色を跳ね返し、塩湖の夜はさながら氷の大地である。
あの謎の夢幻郷以来、七不思議には相変わらず縁がない。そうこうしているうちに私に与えられた休暇期間も終わりに近づいていた。ルベカは不満かもしれないが、七不思議探索については、一旦はあの写真で満足しておくしかなさそうだ。
のんびりと世界を巡って、面白い風景も見ることができた。まずは、良しとしておこう。
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さて、新たな任務に向け、なまった体も鍛え直さねばならない。都合のよいことに、ラッカランのコロシアムがプレオープンを丁度迎えたところだ。一つ、腕試しといこうではないか。
英雄豪傑猛者強者、強豪ひしめく闘技場に私が足を運んだのは、そんな軽い気持ちからだった。
娯楽島ラッカランの南西に堂々たる威容を誇るコロシアム。将来、ラッカラン顔となるべき施設……などと呼ばれながら、その実、使いやすい宿替わりだったコロシアムが、今日は熱気の中心だ。
かつて魔物商人との癒着が噂され、実際に悪徳興行主による陰謀の舞台にもなったこの施設だが、今回の出し物は冒険者同士が腕を競い合う公式試合。とりあえず魔物商人の影を意識する必要はないだろう。
コロシアムロビーを埋め尽くす、顔、顔、顔。強面から可憐な花まで、プクリポからオーガまで、ずらりと並んだ冒険者たちはいずれ劣らぬ腕自慢に違いない。
中には見知った顔もいくつかあった。I氏、OSM氏、W氏、そしてHM氏などなど。もし、彼らと戦うことになったなら……あるいは、偶然にも手を組むことになったなら……。そんな想像も楽しいものだ。
冒険者たちの強さは身に染みて知っているが、私とて魔法戦士団の一員。むざむざとやられはしない。
……などという自負は、ゴングが鳴るや否や、あっさりと打ち砕かれた。