視界の外から、一撃必殺の矢の如くメラミの火球が飛んでくる。迂闊に深入りした獲物を剣士が待ち構え、剣撃の光輪が犠牲者を薙ぎ払う。そして辛うじて立ち上がった闘士を、舌なめずりして待ち構える準備万端の狩人たち。
初陣の様子は、ここに詳しく記せるほど覚えていない。わかるのはただ、圧倒的な力の波に押し流され、倒されたということだけだ。
ここはラッカランのコロシアム。想像以上の修羅の国である。
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特筆すべきは魔法使いの脅威だろうか。魔力覚醒の秘儀から放たれる呪文の威力は圧倒的の一言だ。
とっさに結界を張り、防御しようとした私は、そこで愕然とすることになる。コロシアム内では、魔法使い以外が魔結界を張ることは禁止されていた。
おそらく、敵に魔法使いがいる場合には、マホカンタの呪文が最重要となるだろう。
逆にこちらに魔法使いがいるならば、それを守る位置取りが大事になりそうだ。バトルマスターや爪使いにむざむざと侵入を許してはならない。エルトナ風に言えば、やはりSUMOは重要なのだ。
マホカンタで身を守り、バイキルトで力を倍増させれば爪使いの天下。ブーメラン使いのレンジャーも侮れない。
無論、敵も同じことを仕掛けてくる。前衛アタッカー同士の戦いは先手必勝。虎咬の連撃が直撃すれば抗う術は我が手にはない。かくして闘士たちは名も知らぬ戦士を討ち、生き延びて血反吐を吐くのである。
これを阻むのはパラディンなのか? ギガスラッシュもここにきて存在感を示す。
もっとも、敵陣突入を躊躇して遠距離から放ったギガスラッシュには空振りも多い。敵も棒立ちしてくれるわけではなし、距離感をつかむことが大事になりそうだ。
負けて、負けて、稀に勝ち、また負けて……とりあえず20勝を達成するまで頑張ってみた。挑戦回数は数えていないが、まず、倍以上であることは間違いない。
疲れた体を癒すため、コロシアムの地下にある酒場に腰を下ろし、少々大きすぎのコロシアムバーガーを頬張りながら、私は戦いを振り返ってみた。
開始位置となる自陣にこもり続けて勝てた試合は少ない。
最も怖いのは自陣付近でゆっくりと準備をしている最中に、相手の魔法使いが武舞台から呪文を放ってくるパターンだ。こうなると相手に手が届かないだけあって手におえない。
かといってアタッカーが単独で駆けていった場合も空しい結果に終わることが多い。
攻めるなら息を合わせて畳みかける。守る場合も、少なくとも武舞台と場外を繋ぐ細い道までは進んだ方が良いように思える。この細い通路に壁役を置くことができれば有利に進められるのではないだろうか?
劣勢となり、こちらが立ち上がるのを相手が待つような展開になると逆転は難しい。周囲を取り囲まれた状況でたった一人、立ち上がったところで何ができるわけでもないのだ。
せめて敵の目を引き付けるために敵後方に向かって走ってみるが、これも仲間から見れば足並みをそろえずに突撃する前衛に見えるのだろうか? 微妙なところだ。
……ま、何をやっても負けるときは実にあっさりと負けるのだが。
勝敗ばかりが楽しみではない。偶然、私の名を知っているという冒険者と出会ったこともあったし、魔法戦士四人でパーティを組んだ果敢な挑戦者との戦いもあった。もしや同志だろうか?
味方をかばいながら器用に戦うパラディンや、体当たりで行動を阻止しようとする戦士。同じ職業でも戦い方は人それぞれだ。
誰の目にも敗北が明らかとなった試合終了5秒前。突然キレのあるボケを放ち、笑いをとった旅芸人もいた。ある意味、彼の勝ちである。
そういう楽しみ方も乙なものだ。
まあ、あまり入りびたりになって、本来の任務に支障をきたしてもまずい。まだプレオープンとのことでもあるし、ほどほどに頑張ってみることにしよう。