
緑あふれる箱庭のような城下町に噴水の水はさらさらと流れる。旗をひるがえしてそびえ立つ城郭はおとぎの城そのものである。
街の入り口には討伐隊から情報を仕入れようとする旅人が、東部にはドレスアップに励むアストルティアのファッションリーダーたちが集い、この町の賑わいに花を添えている。
だが王城を守る兵士たちの表情は硬い。
陰謀劇の末、王が死に、首謀者が死に、今は次代を担う若い……否、幼い王が玉座にある。プクランドののどかな風景に反して複雑な政治的事情を持つこの都は、プクランドの王都にしてもっともプクランドらしくない町と言えるかもしれない。
我がヴェリナードもその特殊な事情を考慮し、魔法戦士団からの使者を足しげく通わせていた。友好国として、大事あらば力とならねばなさない。
口さがない者たちに言わせれば、魔法戦士団などは国家規模の傭兵集団にすぎないという。
私としてはいささか納得のいかない評論であるが、武力をもってことを成し、対価はきちんといただいているのだから、建前通りの慈善事業でないことも事実だ。
ただし、国外からの報酬は、魔法戦士団の維持費という側面の方が強く、損得だけで言えば黒字決算はまずありえない。むしろ、活動を通してヴェリナードの国威を示し、ウェナの国際的位置づけを向上させることが政治的側面から見た魔法戦士団の存在意義と言える。
ウェナは水清らにして緑豊かな国であるが、ウェナ諸島というだけあって小さな集落は各島ごとに分散されている。国費により無料の渡し舟が設けられ、これを繋ぐ任を果たしているが、もし戦火が広がれば簡単に分断されてしまうことは明らかである。
各国との友好関係を保ち、また武威を示すことはウェナ諸島を戦火から守るための予防策と言える。その意味で、国外で働く魔法戦士団と国内を守る衛士団とは双子のような関係にある。
閑話休題。メギストリスに話をもどそう。
今、この国は一つの悩みを抱えている。
プクランド各地に現れる亡霊の兵士たち。予知能力を持つ幼王ラグアス殿の見た夢によれば、彼らは最終的にメギストリスを襲うことになるという。
国内に不安を与えないため、この調査は一部の精鋭部隊と、国外から派遣された我々魔法戦士団によって秘密裏に行われることとなった。

のどかなプクランドの田園風景。農作物に混ざったタマネギマンが農夫たちを悩ませるが、それ以外には大したトラブルもないオルフェアの農耕地である。亡霊騒動とは一見して無縁な穏やかな光景だ。
農夫たちが旅人のために用意した酸味溢れるレッドベリーをありがたく頂戴しつつ、目撃証言のあった洞窟へと進む。
果たして、我々を出迎えたのは、妙に気力充実した亡霊の兵士たちだった。
「退かぬ!媚びぬ!顧みぬ!」
奇妙なのは、亡霊でありながら見るからに規律正しく統率された軍団だということだ。彼らのつぶやく言葉を、単なる妄執と呼んで良いものかどうか……
とはいえ、降りかかる火の粉は払わねばならない。死者は死者の国へ、という天の定めた規律を守らせてやろう。
亡霊たちの言葉とラグアス王の予知夢から、彼らが500年前の英雄王フォステイルに恨みを持つ集団であることがわかった。
フォステイルといえばプクリポ史上有数の英雄。かの旅団副長AST氏も彼を真似た衣装を身に着けていたほどだから、その人気は推して知るべしだ。
だが、王国に伝えられた歴史書には、彼に関する記述がすっぽりと抜け落ちているという。
「ぼくは歴史の真実を解き明かしたいのに!」
嘆く幼王。目的がずれ始めているのではないか……? と、少し心配になったが、口には出すまい。
数度にわたる調査と戦い。
中には数々の呪文を使いこなす上級兵士の姿もあった。ますますもってただの亡霊とは思えない。
同行していたメギストリスの兵士がぽつりとつぶやいた。
「似ている……我らのメギストリス流剣術に……」

……敵が使っているのは骨棍棒に見えるのだが、あれがメギストリス流の剣術なのだろうか? 物騒な剣術である。
倒してはまた現れる、不毛な亡霊部隊との戦いだったが、亡者たちの亡骸から手に入れた一冊の書物が最大の収穫となった。
記されていたのは、英雄王フォステイルとメギストリス建国にまつわる過去。正史に伝えられなかったもう一つの歴史だ。
王の言葉ではないが、これは任務抜きにしても興味深い。
ラグアス王により召集された学者たちの手により、解読が開始される。
とりあえずは結果が出るのを待つとしよう。