プクランド南部に広がるチョッピ荒野は、乾いた風の吹く荒涼とした砂の大地である。人里から離れ、古い廃鉱と築かれた年代すら不確かな長城のふもとに小さな集落を持つ以外、これといった村もなく、その歴史を伝えるものもない。
最近では多くの冒険者で賑わうこの地だが、訪れた旅人の数に反して、この地の歴史を知る者はごくわずかである。もっとも、彼らのお目当ては鍛錬のための恐竜狩りであって、歴史調査などではないのだから、無理もないが。
勤勉な狩人たちの勇姿を尻目に、我々は長城を遠く離れ、鉱山の西側をくりぬいて作られた小さな洞窟を訪れていた。
立ち込めるキナ臭い空気を払い、私と酒場で雇った冒険者たちがまず足を踏み入れ、魔法戦士団の他のメンバーがあとに続く。後詰はメギストリスの兵士隊だ。
この小さく薄暗い洞窟には、その隠された歴史の一端を明かしてくれるかもしれない貴重な遺物が眠っているはずである。
……否。
亡霊達は眠らない。
カラカラと乾いた音を立て、遺物たちが起き上がった。
パルカラス亡霊王の拠点、チューザー地下空洞。ここは歴史の闇に埋もれた敗者たちの寝床である。
500年もの間、どんよりと暗い地の底を彷徨い続けた亡者の吐息が空洞を淀んだ色に染めていく。
怨嗟の声を上げる怨霊の一つ一つが渦を巻き、その光景は陽光の元より訪れた生者たちの恐怖を誘う。だが我々は臆することなく松明をかざし、その怨念の源を揺らめく光と影の中に浮かび上がらせた。
亡霊の兵士たちが空洞の瞳に主の杖を見る。
数えきれないほどの畏怖と崇拝の眼差しが宙を漂う。
そして彼はそこにいた。
「フォステイルの差し向けた追手か」
躯の双眸に傲然とした眼差しを宿し、古代王は口を開いた。
この男がパルカラス。
プクランド各地を騒がせ、メギストリスの精鋭部隊を散々に打ちのめし、敗走せしめた悪霊たちの首魁である。
かつて権威を誇ったであろう赤いローブも今はボロ切れとなり、略式の王冠も半ば朽ち果てて見る影もない。
だが我々は、息も絶え絶えとなって謁見の間まで辿り着いた兵士の言葉と、その破壊しつくされた肉体により、彼の魔力がいかに強大であるかを理解していた。
詰め寄る戦士達に亡霊王は一瞥をくれ、フン、と鼻で笑う。
「この間の連中は実につまらぬ相手であった。余は雑兵どもの下らぬ舞など見たくはない」
悪霊ながら威風堂々とした立居振舞いは、なるほど、かつて権勢を誇った王のなれの果てに違いない。なかなかの覇王ぶりといえる。その朽ち果てた肉体と精神以外は、だが。
亡霊たちに号令をかけ、我々を嘲笑うように高く杖を掲げる。
「さあ、余を楽しませて見せよ!」
私は隼の剣を抜いた。
そして、戦いが始まった。
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戦闘は熾烈を極めた。
英雄フォステイルに次ぐ魔力を持つという亡霊王は、その名に違わぬ実力を見せつける。
マホカンタで魔術を、スクルトで剣を防ぐ鉄壁の布陣に加え、魔力覚醒の奥義すら披露して見せた。
さらに、一度は倒された部下を召喚し、持久戦に持ち込む。
並の冒険者ならば、この守りを突破できずにむざむざと屍をさらすことになるだろう。
奴に誤算があったとすれば、私が酒場で雇った冒険者が並の実力者ではなかったこと。
そして魔法戦士である私を相手にしたことだ。
バイキルトでスクルトの壁を打ち砕き、マジックルーレットとMPパサーが持久戦に疲弊した冒険者たちを立ち直らせる。
魔力覚醒からの一撃も、コロシアムで喰らった一撃必殺の魔術に比べれば可愛いものだ。むしろマホキテで魔力の足しにしてしまえば良い。
長い戦いの果て、亡者の軍団は一人、また一人と土に還り、ついには亡霊王の肉体にも限界が訪れた。
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「この程度の苦痛うううう!! 逆族フォステイルに無理矢理に妻とされたわが娘メギストリスに比べればああ!!!!」
限界を超えてなお、立ち上がる死者……彼が口にした言葉は、追放された悪霊の王にしては意外なものだった。
「待ってください!」
甲高い声が亡霊王の言葉を遮る。
後詰の兵士たちの間から歩み出たのは、つぶらな瞳を持つ少年。
現代のプクリポの王の姿だった。