硬質な機械音が壁の間を反響する。通路を彩るプロペラ草が、歯車と共にその身を震わせた。キラキラ風車塔は、プクランドには珍しい機械仕掛けの塔である。
ドルワームでは神カラクリと呼ばれる機械式昇降機。これを動かす歯車は、風力を利用した半永久機関とされている。
数百年前の王宮建築家、プロッペの作とのことだが、フォステイルがこの塔を使用していることから、おそらくプロッペに建設を命じた王とはフォステイルのことではないだろうか。
これほどのカラクリ塔を作る技術は現代には伝えられていない。ドワチャッカと同じく、この地にも優れた機械文明が存在したのかもしれない。
知れば知るほど、プクランドの歴史は興味深い。ラグアス王が思わず夢中になってしまうのも無理からぬことだ。
だが、その歴史の連鎖の果てに立つのが、あのカエル面だと思うと少々情けなくなってくる。
風車塔の最奥、神聖な空気に包まれた儀式の間に突如、魔障の風が吹き抜ける。かつてこの国を混乱に陥れた魔軍師イッドの幻影が、その異形の姿を表わした。
暴君や妖魔の姉妹、エルトナの怪蟲らと同じく、魔障の氾濫により現れた幻影が、再び儀式の間を荒らし始めたという報告がメギストリスに寄せられたのは、我々魔法戦士団が帰国の準備をしている最中だった。
最後の一働き。これが総仕上げだ。
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三位一体というべきか。その波状攻撃は亡霊王とその配下を上回るものだった。
もし、予め用意した眠りの呪文を遮る装備を身にまとっていなかったなら、我々とて後れを取っていたかもしれない。
だが、最初の攻撃をしのぎ切り、"眠り"を撃破したところで完全に流れは我々の側に傾いた。
特筆すべきは、酒場で雇った武闘家の働きだろうか。
バイキルトを受け、敵を殲滅する姿はいつも通りだが、驚くべきはその判断力だ。
"死"の闘士がテンションバーンの構えをとった時、私は多少の損害を覚悟した。3連撃を全て己の力に変えてしまうこの構えは、タイガークローの数少ない弱点の一つだ。
だが、なんと武闘家はその構えを見て取るや否や、矛先を魔軍師の側に変えた。
そして魔軍師がイオグランデの呪文を詠唱すると、自ら距離をとる動きすら見せた。
どうやら酒場の冒険者たちも、知らない間にかなりの判断力を身に着けたようだ。
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やがて"死"が文字通りの運命を迎え、イッドの幻影を我々4人が取り囲む。なおもあがく魔軍師だったが、その抵抗もすでに空しい。
魔障の力は徐々に弱り、武闘家の一撃がイッドを切り裂いた時、魔軍師を取り巻く不気味な光は宙に舞い、やがて紫色の宝珠へと姿を変えた。
音もなく魔軍師の姿が崩れ、消える。
これでしばらくは安心のはずだ。
メギストリス王国と腕自慢の冒険者たちにより風車塔は厳重に管理されることとなり、二度と儀式の間が汚されることは無いだろう。
500年前の疫病から始まり、多くの人々を巻き込んだ一連の流れも、これにてお開きだ。
…………。
お開きだとよいのだが。
正直なところ、あまりそうは思えない。
英雄というのは、良くも悪くも他者を巻き込み、大きな騒動を起こすものだ。その点、フォステイルはまぎれもなく英雄に違いない。
フォステイルの仕掛けたことがこれで全てだったと、誰が断言できるだろうか。
次に彼がプクランドの歴史に登場するのは、果たしていつのことか。その時はまた、厄介な事件と同伴だろう。
少し憂鬱でもあり、少し楽しみでもある。
とりあえず、今日の所はめでたしめでたし、ということにしておこう。