地の底より湧き出た光の河が、まばゆく大地を照らす。映し出されたがけっぷちの村には、未だ災厄の爪跡が深く残っていたが、吹く風はエルトナらしい柔らかさを若干ながら取り戻したようだった。
女王陛下の命により、あの戦いが終わった後のこの地の状態について確認にやってきた私だが、どうやら陛下には良い報告ができそうである。
美しい紅葉が血の色と重なることは、もう無いはずだ。
カミハルムイのニコロイ王を中心に、復興作業も開始されたとのことで、いずれは村も元の姿に戻っていくことだろう。
だが、二度と帰らぬものもある。
そして生き残った人々が心に負った傷を癒すには、村の復興以上の時間がかかることだろう。
今、私の目の前に、そんな生き残りの一人がいる。
名を、コゼットという。
「あなたの名前、教えてくれない?」
姫の付き人であった時とは打って変わって少女らしいはつらつとした口調に違和感を覚えた。が、これが本来の彼女なのだ。ロディアの言葉を借りれば、彼女は呪縛から解き放たれたのだ。
そして記憶と、それ以上に大きなものを失った。
彼女は姉の行方を、そしてここで起きた出来事の全てを知りたがっていた。真っ直ぐな瞳で、私を見上げてくる。
教えることは躊躇われた。
本来、教えるべきではなかったのかもしれない。
今なら、全てを過去にして生きていくことができる。コゼットの未来を考えるならば、それが最も無難な選択肢に思えた。
だが……
世告げの姫を、災厄と共に伝説の彼方へと沈んだ少女たちを、このまま歴史の闇に葬ってしまってよいのか?
その迷いが、私に告げるべからざることを告げさせていた。
私の言葉は、コゼットを再び呪縛の渦の中に引きこむ悪魔のささやきかもしれない。そうなれば、ロディアは私を許さないだろう。
……一体、何をやっているんだ、私は……
私が若干の自己嫌悪に陥る間、コゼットはさらに深い混乱の海を泳いでいたに違いない。神話。戦い。犠牲。そして自らが演じていた役割……全てが突然すぎたのだろう。呆然自失とし、しばらく言葉もなかった。
ややあって、彼女は口を開く。
「あのね……お願いがあるの」
神話の終焉を見送るコゼットと私の旅は、このようにして始まった。