粉をふくような乾いた音と共に、筒の先からコゼット手作りの弾丸が逃げていった。
尾を引いて空に舞い上がる弾丸が曇天に隠れ、我々はその姿を見失う。
ややあって、閃光。
ガートランドから南東へ数刻、ギルザッド地方の雲がちの空を一条の光が貫いた。
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雲から空へ、空から山へ、一体どこへ降り立ったのか。オーグリードの無骨な岩肌にそびえ立つ光の柱を見て、これが幼い少女の仕業だと思う者はいないだろう。
入り江の集落の人々も天を指さし、口々にわめきたててる。神の奇跡だ。いや、天災の兆候だ……
私もいささか信じがたい心境だ。子供の作ったものにしては壮大すぎる。
見れば、当のコゼットも発射紐を引いたままの姿勢で尻もちをついていた。立ってこないところを見ると、どうやら腰を抜かしたらしい。
ロディアが教えた合図とやらは、少々過激すぎたらしい。
浮世離れしたあの姫らしいといえば、そうなのだが……。
かつてロディアが教えた待ち合わせ場所、光の柱の降りる場所を目指し、ドルボードを急がせる。足元にはコゼット。これくらいの子供ならば二人乗りも可能だ。さすがにドルボードの駆動音が少々苦し気だが……いや、よく考えれば普段から苦し気だったか。
やがて夜のとばりが落ち、光は色濃く浮かび上がる。
山野を超え、光を追ううちに、徐々に目指すべき場所がわかってきた。
ギルザの入り江。山がちなオーグリードにあって、珍しく海に面した静かな浜辺である。なるほど、待ち合わせにはもってこいの場所だ。
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夜の水面に柔らかな輝きが舞い降りる。我々を出迎えたのは一匹のヒトデ。お呼びでないことを悟ったか、そそくさと逃げていった。
その様子に笑みを浮かべたのもつかの間。コゼットの瞳が失意の色を宿す。姉の姿は、どこにもなかった。
さざ波が何度、浜に押し寄せただろう。コゼットは待ち続けた。私は見ているのが辛かった。
来るはずもない。
私は確かに見たではないか。ロディアが闇に消える姿を……。来るはずのない迎えの場所に、何故彼女を連れてきてしまったのか。
一体私は何がしたいのだ……? 再び自問したそのころ、潮騒を消す足音がギルザの入り江に響いた。
うつむき、波と見つめ合っていたコゼットは、雷に撃たれたようにハッと背筋を伸ばし、振り向いた。無論、私も同様だ。
だが、そこに現れた人影は、少女が待っていた人物のものではなかった。
剽悍な風貌の男を先頭にし、若い男が二人、それに従っていた。簡素な身なりはまるで旅芸人のようだが、腰に差した剣と彼らの深刻な表情がそれを否定していた。見れば、軽装に見えて腰から下にはかなり強固な鎧を装着している。
私はとっさに剣の柄に手をやり、コゼットを後ろにかばった。
かつてロディアが語ったところによれば、彼女たちは追われる身のはずだ。姉に向けたはずの発信弾が、よからぬ輩まで引き寄せてしまったのか……?
私の予想は、半分まで当たっていた。確かに彼らはロディアとコゼットを追っていた。
だが、それは二人を討ち取るためではなかった。
コゼットが自分の名を告げた瞬間、彼らは一斉にその場に跪いた。
思わぬ成り行きに、私とコゼットは目を見合わせるのだった。
男たちが告げた言葉は、衝撃的なものだった。
ここに全てを記すのはやめておこう。
だが幼い少女が全てを……姉が帰らぬことを含めて、全てを……受け入れるには、時間が必要だった。
「もう少し、お姉ちゃんを探したいの。お願い!」
コゼットの頼みに対し、男たちは苦い表情を浮かべた。彼らにも余裕はないのだ。
だが最終的には私がヴェリナードの魔法戦士として身分を明かしたことで、信用して彼女の身柄を預けてくれた。
こうなると私も責任重大だ。何かあれば、国際問題になってしまう。
もっとも、そんなことは無関係に、コゼットの身は守って見せるつもりだが……
「お姉ちゃんには、仲間がいたんでしょ?」
コゼットはドルボードの取っ手の根元につかまりながら、私を見上げた。
「お姉ちゃんが見つからないなら、せめてその人たちが帰ってきてないか、知りたいの」
それで気が済むなら、それもいいだろう。私自身、気になっていたことだ。
一旦ヴェリナードに帰り、改めて他の姫たちの縁者をあたってみることにしよう。