7人の仲間と共に、闇の溢る世界に挑む。これで、何度目だろうか。コゼットを護衛し、神話の終焉を見届けるため、と銘打たれた今回の同盟だが、気負った空気や張りつめた緊張感は無い。戦いは終わったのだし、気心の知れた仲間同士、多少のミスを気にする者もいなかった。
思えば、神話の戦いに一人で挑み、その壁に突き放されたことが彼らと出会うきっかけだった。
今でもなお、何故一人で戦うことができないのか、というわだかまりはある。アストルティアの現状に合わせて自分の方が変わっていくことへの疑問もある。
だが、彼らと共に戦うことは楽しい。そして今、共に神話の終焉を見届けられることが嬉しかった。それもまた、偽らざる本音である。
もし、これが何者かの……アストルティアを支配する神々の……思惑通りだったとしたら。いや、おそらく思惑通りに違いないのだが……。
それは癪なことだ。神々の傲慢に唾を吐きたくもなる。
しかし……。
神々の思惑など、どうでも良いのではないか? そうも思う。目の前の人々を好ましく思う気持ちに比べれば神々の存在などちっぽけなものだ。
もっとも、私の内側にはまだ孤独を好む気質も残っていて、一人になりたいこともある。それが余計に割り切れない気持ちを助長するのだが……
ま、それは私自身の話だ。閑話休題。
帝王が封じられたためだろうか。本来、姫たちの力が無ければ光が差さないはずの闇の世界も、今では単独で突入することができる。コゼットを守りながらの道中とはいえ、これだけの手練れが揃えば危険らしい危険もない。実に平和なものだ。
道中、闇の世界の不可思議な光景を写真におさめる。
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床の上に薄く張られた水がゆらゆらと揺れ、台座の上ではかがり火が踊る。揺れる水面に炎の舞が映し出され、光と影もまた踊る。地下9階は神秘の間だ。
おそらくかつては何かの儀式にでも使われていたのではないだろうか。
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迷宮を抜け、通路から見下ろすと、かつて密集住宅地だったであろう町並みが見えてくる。屋根に空いた大穴から風の鳴く声が響いてくる。滅びの街の哀歌である。
立ち並ぶ墓碑に対し、我々も一時、祈りをささげた。
そして辿り着いた最深部にて。
我々が見たことの全てをここに記すことはしない。……いや、そもそも我々には見えなかったのだから記しようもない。
ただ、コゼットがある決意を受け入れた時、私の中で、ロディアという名の物語がようやく、一本の線として繋がったと思った。
ロディアには、彼女自身のために果たすべき目的があり、そのためには自分かコゼット、どちらかが生き延びなければならなかった。
世告げの姫として神話の導き手を演じたのも全てそのためだ。
そして今、戦いの果てにコゼットを残すことができた。犠牲を払いつつも、彼女は間違いなく勝利したのだ。
コゼットは残された希望として、多くのものを背負うこととなった。彼女の戦いはこれから始まる。
それは、ロディアの勝利をひとときの華にしないための戦いである。
そして残された希望はもう一つ。
それはコゼットのための気休めに過ぎなかったのかもしれない。だがコゼットが聞いたというロディアの言葉は、彼女に大きな希望を与えたに違いない。
私もそれを信じてみるか……。私だって、ロディアともう一度会ってみたいのだ。
我がヴェリナードも、彼女の戦いに力を貸すことになるだろう。サテラが語った戦争についても注目せねばならない。そして旅の賢者ホーローが語った、グランゼドーラの姫……すなわち勇者のことも。
「レンダーシア、か……」
誰言うとなく私は呟いた。
神話の終焉は、新しい物語の始まりでもあった。
ただ、今は残された少女と、彼女を見送る魂の安寧を祈り、黙祷をささげるのみである。
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ところで、がけっぷち村の神父が、気になることを言っていた。
「神託を授かったのです。災厄の王を真に倒したとき、その者は栄えある称号を手にするだろう、と」
栄えある称号……。
私も、私の仲間たちも、そんなものを頂戴した覚えはない。
ツ……と、嫌な汗が背筋を伝った。
真に倒した時。
私の脳裏に王の最期が蘇った。
姫たちにより地の底へと封印されていく災厄の王。彼は消えたわけではない。ただ封じられただけだ。
私の顔に浮かんだ笑みは、はたから見てもわかるくらい引きつっていたようだ。神父が、そしてコゼットが私の顔を覗き込み、首をかしげた。
あの戦いですら、序章に過ぎないとしたら……
「レンダーシア、か……」
もう一度、私は呟いていた。