海に生まれ 海に生きる
それが我ら ウェディの民
母なる海に 祈りを捧げ
我らは求める 神の恵みを
大いなる 海の神よ
我らの命 我らの思い
守りたまえ 清めたまえ
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ヴェリナードの青空に、聞き慣れた言葉が吸い込まれていく。
王家以外では、選ばれた少数の従者だけが立ち入ることを許されるシェルブリッジのバルコニーにて、護衛として同伴を許された私は至福の栄誉と、一抹の不安を胸に抱き、歴史に残るであろう光景を見守っていた。
城下に響き渡る歌声は、住民や我々が知るものと比べ、重く低く、そして若々しい。今日、この時から、この歌声がヴェリナードを彩り守る。このたびの祭典は、そのお披露目の式である。
そしてそれは、無残な結果に終わった。
歌は空しく宙に散り、ウェナの水は深く暗い光をその奥底に秘めたまま、無関心にさざめき続ける。ウェディの王が果たすべき責務……唄により水を清める儀式は、見事に失敗した。
住民たちはため息交じりに散っていった。失意が町を覆う。やがて即位する新王のお披露目としては最悪の結果と言うべきだろう。
私は混乱を収拾しようと善後策を講じる事務屋たちと、うつむく王子とを交互に眺めながら、今回のことを考えていた。
王家にとっては大失態であり、我々魔法戦士団も無関心ではいられない。だが、心のどこかでやはり……と、つぶやく自分がいた。
オーティス王子は高貴な生まれでありながら下々の者に対しても礼儀を忘れず、また自己研鑽を怠らない努力の人である。行動的な性格であり、ともすれば勇み足となることもあったが、それは成長するにつれて自然と治まっていくだろう。
私が畏れ多くも王子の資質を疑うとすれば、それは王子が王になろうとしている、というその一点についてである。
誰もが知っている通り、我がヴェリナードではラーディス王の時代を最後に、歴代の女王陛下による統治が続いている。
今やそれが常識となり、下々にいたるまで、それ以外の統治を考えたことはないだろう。だが、王子はあえて男王になろうという。
正直なところ、私には理解しかねる。
別段、男では王が務まらない、などと思っているわけではない。ヴェリナード以外の国は男が王として国を回しているのだから、何の心配がいるものか。
だが、女王から男王への変化に民衆がついてくるかどうか。これが問題である。
もしこのままオーティス王子に代替わりし、そこで何か小さなつまずきがあったとする。すると、どうなるか。
「やはり男の王ではだめだ」「女王であればこんなことには……」
必ず、そんな声が囁かれるだろう。普段であれば自然に抑制されていたであろう不満が、男王という糾弾対象を得た途端に爆発的に膨れ上がる……そんな可能性も、無きにしも非ずだ。
何も藪をつつくことはないではないか。これまでの伝統通り、王子が妻をめとり、その女性を……おそらくはセーリア様を……女王とすればいい。王子が政治的手腕を発揮したいというのであれば、それは今のメルー公がやっていることである。何の問題もないはずだ。
何故、王子は王位を目指すのか。
前々から抱いていた疑問が、儀式の失敗を目の当たりにして強く湧き上がってきた。