バトルマスターは言った。「パン一切れだぜ?」
武闘家は言った。「取り戻せ、パン一切れでも!」
なりきり冒険日誌~変わる世界

魔障の力の影響なのかどうか、世界は揺れ動いている。
爪使いの十八番、タイガークローが力を封じられ、逆に戦闘スペシャリストの名にかけて追い上げを見せるバトルマスターたち。
そして敵の戦闘力を奪う戦法に磨きをかけて戦士は一人征く。
もっとも、その影響を考慮してなお、爪使いがトップランクのアタッカーである事実は揺るがない。我々魔法戦士との相性を考えれば、やはり武闘家たちとの付き合いはまだまだ続きそうだ。
私はといえば、魔法戦士としての業務が忙しく、揺れ動く世界に取り残され気味だ。
密偵とはいえ、旅ばかりしていればよいというものではない。連絡役との打ち合わせや書類作成など、地味な仕事が山積みである。
道行く人々が軽快に乗り回すドルボードを横目に見送りながら、私は徒歩で聖使者の儀式に赴くのだった。
出遅れが幸いしたか、ほかの冒険者の姿は全く見えず、首尾よく試練を終えることができた。
ことのついでに、以前修業をした杖の使い方も実戦で試してみた。杖は練習用の安物だが、この妖精の杖は、やや少女趣味かもしれない……。

使い勝手については、やはり緊急時の魔力回復と、その後の仲間への魔力供給が安定する点がありがたい。早詠みの杖も補助魔法とは相性が良いようだ。
が、魔力回復は小瓶のがぶ飲みでなんとかなり、早詠みについても、それ自体を使うために時間を割くのは気になるところだ。本気で使うならば高価な錬金が必須だろう。
一流の錬金術師が鍛え上げた杖と小手ならば、早読みの杖を使わずとも2倍近い速度で魔法をかけられるというが……。
そこまでの出費を許容すべきかどうか、今しばらく慎重に考えようと思う。
景気づけに、と魔法の迷宮にも挑んでみた。
運命により導かれた仲間たちは、全員酒場からの派遣だったらしい。
気兼ねせずに戦えるのでありがたい限りだが、魔法戦士の私、格闘家のパラディン、斧使いのレンジャーとブーメラン使いのレンジャー。見事に中衛ばかりが集まったものだ。
アタッカー、僧侶ともに不在となれば回復をレンジャーたちに任せ、私は攻撃に回らざるを得ない。ギガスラッシュをここまで連発したのは初めてのことだ。
だが剣士たちの長年の研鑽により、ギガスラッシュはその効果範囲を増している、何度か致命傷を喰らいながらもレンジャーの蘇生魔法に助けられ、かろうじて道中を阻むガニラスの群れを始末する。
迷宮の最奥に待ち構えていたのは初めてお目にかかる赤いトロルだった。
このパーティで勝ち得るだろうか…? 緊張に手が震えたが、どんなに強くともトロルはトロル。
盾に意識を集中し、痛恨の一撃だけは喰らわないように立ち回れば優位を保てる。また、いくつかの戦法を試してみたが、この魔物は防御が薄いうえに光の力を非常に苦手としているようだ。
バイキルトとライトフォースをのせて隼の剣がひらめく。
戦いに夢中になるあまり不覚にも写真を撮り忘れたが、片手剣と盾で戦う魔法戦士にとって、かなり相性の良い相手のようだ。
魔法戦士の象徴と呼ばれるフォースの力だが、正直なところ、有効に活用できる場面は少なく、最終奥義であるライトフォースに至っては習得すらしていない魔法戦士も多い。
これを機に、フォースの力が見直されていけばよいのだが……
打ち倒したトロルバッコスの体は霧に包まれて消える。彼らは不死身であり、倒されても何度でも現れる。中には魔力により、さらに強化されて蘇る者もいる。
強化されたバッコスとの再戦も、いずれは訪れるだろう。その時、今日のような戦法が通じるのかどうか。魔法戦士が活躍できる場となってくれるのかどうか。
今後の動向に注目したい。