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塔に別れを告げ、岩石砂漠から砂砂漠へ。夜のおとずれと共に、空には星が舞う。吸い込まれるような砂漠の星空に、思わずうっとりと瞳を奪われ、我々は歩みを止めた。
天の河だ。ミルキーウェイとはよく言ったものだ。
レンダーシアを包む紫色の霧は、昼は青空を遮る厄介な難物だが、夜は夜空をより一層妖しく演出する魔性のカーテンである。そのカーテンをつたい、キラキラと宙を舞う光は、この地を覆う災厄と、これからの道行きの険しさをしばし忘れらせてくれた。
星天の元、歩む我々がとりあえずの目印に定めたのは砂漠にそびえる巨大な三角錐。謎のピラミッドである。レンダーシアに先行した冒険者たちから、この墳墓の噂話は聞いていた。もっとも、聞こえてくる噂は財宝と魔物の話ばかりで、この遺跡が何のために作られた、どのような施設なのか。その点については謎のままだ。
レンダーシアの地理も歴史もわからないまま、古代遺跡の謎が解けるとは思えないが、興味はある。さっそく足を踏み入れてみることにした。
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独特のエキゾチックな雰囲気と、黄金飾りに包まれた巨大墳墓、ピラミッド。
特に目を引くのはこの地で信仰されていたらしき神の像である。おそらく伝承に聞くアヌビス神だ。ミイラ作りの神と言われるだけあって、ピラミッド周辺には包帯をたらたらとなびかせたミイラ男の姿が目立つ。ミイラ女も中にはいたが、まあ、気にするまい。
余談ながらこの神の肖像画は必ずと言ってよいほど横からの図となっている。珍しいので正面からの写真をおさめておくことにした。
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色とりどりのかがり火が暗い通路を照らす。墓守のための照明なのだろうが、今やその墓守も明かり要らずの常世の住民だ。結果、このかがり火は侵入者のために道を照らすことになる。至れり尽くせりの遺跡である。
玄室を守る魔物たちはかなり強力で、さすがに僧侶がリルリラでは対抗できなかった。改めて酒場で冒険者を雇い、比較的浅い層を探索する。ギガスラッシュやレンジャーのブーメランが猛威を振るい、武闘家の一喝が戦況を一変させる。残念ながら大した収穫は無かったが、酒場で雇った冒険者との共闘でも2層程度までならば問題なく戦い抜けることは確認できた。それ自体が収穫である。
噂によれば砂漠の神々にちなんだ魔法のブローチが発見されることもあるとか。金銀財宝と新たな力を求めて、今日も墓盗人たちは駆け抜ける。
私もそれに興味がないわけではないのだが、もう一つ気になる点があった。
それは王を表すファラオ像の顔である。
どう見ても人間ではない。……犬だろうか?
もしや、ピラミッドを作った古代文明とは犬魔族の文明だったのだろうか。猫島のような例があるので、一概にバカげた妄想ともいえない。
今後、大陸探索の中で犬型の魔族を見かけたら、注意深く観察してみることにしよう。
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ピラミッドを出てしばらく探索を続けるうち、巨大な金字塔と裏腹にひっそりと佇む墓碑と、そこに捧げられた花を発見する。
デフェル荒野にぽつんと佇むシスター・エレーヌあたりが捧げたものだろうか? 町も村もない荒野で一人、祈りをささげる彼女の姿は謎に満ちているが、一連の遺跡の関係者なのかもしれない。
ピラミッドといい、塔といい、この場所にはまた何度も訪れることになりそうだ。
探索に一旦、けりをつけ、我々は進路を南にとる。
湖上の集落で聞いた話の通りであれば、アラハギーロ王国への道がそこから続いているはずである。
我々はレンダーシアで初めて訪れる本格的な街への期待に胸を膨らませつつ、ドルボードに飛び乗るのだった。