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私の手に一振りの剣がある。
隼の剣、攻撃錬金度数19。
業物である。
しかしその切れ味以上に、剣に刻まれている銘を私は嬉しく思う。
武器職人ザラターン作、錬金術師ほむの仕上げによる隼の剣+3。
お二人の好意により、格安の値段で譲っていただいた。有難すぎて感謝の言葉も思いつかないが、この恩は働きにて返すことにしよう。
この剣が幸運を引き寄せてくれたのか、この日の狩りは実に順調なものだった。
ザラターン殿、ほむ殿、モモ殿と共にエルトナ、スイゼン、ウルベアと魔障の幻影を狩り倒し、その全てが一回の討伐でオーブ化に成功。
さらにメンバーと別れて赴いたポポリアきのこ山では、一匹目のファンキードラゴが竜のお守りを落とす。
「今日はなんて日だ!」
「ありえない!」
と、チームメンバーも温かく祝福してくれた。
さらに訪れた魔法の迷宮には、あの占い師の姿までもが……
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一体、あの二人はこの剣にどういう魔法をかけたのやら。ふくびきを100枚引いてメタスラコインしか手に入らなかった私には、空前の幸運だった。
冒険者たちと共にレンダーシアに向かうよう女王陛下より指令を受け、私も気心の知れた仲間たちとチームを組んで活動を始めたのはわずか10日ほど前のことなのだが、今のところ、全てが順調に進んでいるように思える。
大切にしたいものである。
私の装備はここ数日で大幅に変化を見せている。
ピラミッドでは、念願のブローチも入手した。砂嵐の主、キャラバンの守護者、荒ぶる神、強き力の象徴。9柱神セトのブローチは持つ者の攻撃力を向上させる力がある。攻撃錬金の隼の剣とは非常に相性が良い。
これに噂のチョーカーでも加われば、攻撃力の面ではかなり向上しそうだ。
もっとも、今まで使っていた隼の剣も会心錬金度数3.0にガード率1.4と、切り捨てるには惜しい力がある。守りを重視する場合や硬い敵と戦う場合に使い分けるとしよう。
ノーブルコートも、ヴェリナードから支給されて以来、ベースとなる防具を切り替えながらマイナーチェンジを続けてきたが、ピラミッドやコロシアムでの戦いを意識し、思い切って守備に特化したものをもう一着買うことにした。
ノーブルコート上、守備錬金度数13。21万ゴールド也。
なお、これまで使っていたものは魔法の鎧をベースにした、呪文抵抗14に光属性抵抗14の品。魔法の鎧自体の呪文抵抗も合わせ、こちらも対魔法用にまだまだ使えるはずだ。重量もある。
下半身の方も同じくノーブルコートの予定だったのだが……
そこそこ程度の守備錬金品でも27万ゴールド。一方、ほとんど守備力の変わらない魔法の鎧が4万ゴールド。
さすがに私はそこまで裕福ではない。大人しく魔法の鎧の守備15を安価な防具でドレスアップして使うことにした。
盾は昔から使っていたブレスガードのオーガシールド、最近購入した呪文抵抗8に炎耐性14の聖騎士の大盾、そして破呪のリングと合わせて呪い耐性を持つ邪眼の大盾は、催眠効果のおかげでコロシアムでも大いに役立つ。
これらの買い物で所持金は半減してしまったが、使ってこそ価値ある金。
超一流と呼ばれる冒険者にはまだまだ遠いが、少しずつ力をつけていくことにしよう。
「ところで、このドレスアップなんだけどニャア」
なんだニャルベルト。人がまとめに入っているというのに。
「上が派手派手で下は地味っておかしくないニャ?」
……人が気にしていることを。
「しかも上は左右に開いてて下は繋がってるって、正面から見ると違和感バリバリにゃ。スカートみたいニャ」
……いいかニャルベルト。さっきも言ったが、下を魔法の鎧ベースにしたのは所持金の都合上だ。そして左右に分かれたコート系の装備はドレスアップ用であっても例外なく高い。
ドレスアップに10万単位の金をかけるくらいなら、最初からノーブルコート下を購入している!
「世知辛いニャ……」
ちなみにこれは前座芸人の服だ。形状が使いやすく色分けもやりやすい。
「上が貴族で下は前座芸人って、なんか悲しい組み合わせだニャ」
ニャルベルトよ。人の世の悲しみを知れ。そうでなければ全ての戦いは無意味なものになるだろう。
「……あんまり上手くないまとめだニャ……」