某月某日。ヴェリナード、白亜の宮殿にて。
旅先から久しぶりにヴェリナードに戻ってきた私は、陛下や団長への報告を済ませると、その足で大使室に向かった。
プラチナの鎧が目にまぶしいチーム大使セティーは冒険者たちの活動を支援し、場合によってはそれ以上の役割を果たす我が国の重要人物である。
かつて神話の戦いの中では、そのもう一つの任務のために彼らチーム大使の間を駆け巡ったものだが、その努力はめでたく無駄になってくれた。心なしか、大使たちの表情も穏やかになったように見える。彼らの心労も並のものではなかっただろう。
そんな大使の元を私が本日訪れたのは、任務のためではなく、自分のチームのためである。
「豊穣の月」では週ごとに各メンバーがエムブレムを作成することになっている。
今週は私の担当、ということであれこれと考えてみたのだが、これが実に悩ましい。
ソロチームを作っていたころは自分の趣味だけで良かったのだが、仮にもチームの象徴となるからにはそれなりの意味も持たせねばならない。
……というわけで、目をつけていたのが月桂樹の紋。
「豊穣」を思わせる「植物」に加え、一応は「月」の名がついている。しかも円形なので、中央の下地をこれで囲ませることで満月をイメージさせることができそうだ。大まかな方向性はこれで決まった。が、問題は色だ。
植物らしく緑系統にするか。実りの稲穂を連想させる黄色系統か。いや、収穫の季節=秋を思わせる紅葉の色か。
月の黄色や背景の黒との兼ね合いを考え、あれこれ悩んだ挙句、紅葉をモチーフにすることにする。
しかし紅葉といってもキャラメルからショコラ色まで選択肢は幅広い。
また、中央が完全に無地では少し寂しかったので、彩りを加えるために蛇の紋を重ね、月を抱くように絡ませてみたのだが、そうするとこの紋の色との兼ね合いも考えなければならない。
そして盾に刻んだ時の見栄え。エムブレム単体で見た場合と盾に刻んだ場合で少し印象が変わってくるのが厄介な点である。
結局、蛇はショコラ、月桂樹はローズの同系色でまとめることにした。
完成したエムブレムを自宅で改めて眺めてみると……
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……ううむ、ちょっと暗いか? やはりもう少し明るい色を……だがそうすると全体のカラーバランスが……
またも悩み始める私だったが、これではいつまで経っても決まりそうにない。思い切ってこれを私のエムブレム案として提出することにした。
……それにしても、作る苦労を知ってしまうと、今後他のメンバーがどんなエムブレムを提案してくるのか、余計に楽しみになってしまう。
全メンバーに当番が回るまで、まだかなりの期間がある。旅の楽しみが一つ増えた形である。
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また別の日のこと。
「ミラージュさんは、まだ悪霊には行ってませんよね?」
チームメンバーから声をかけられた。
悪霊の仮面は魔法戦士が狩りをおこなうにあたって重要な意味を持つ宝具である。が、単独活動をメインにしていた私に悪霊の神々との戦いは縁遠いものだった。
そんな私を見かねたチームメンバーたちが誘ってくれた悪霊討伐。折よく占い師からもらったカードも手元にあり、晴れて初挑戦となった。
現在はジャンク屋へと変貌した、かつての喫茶ロンダルキア。猿、悪魔、巨人と三人そろってのお出迎えである。心なしか、雰囲気も変わったようだ。バズズによると臨場感を重視して懐かしい音楽を演奏させているのだとか。どうやら飲食店からジャンク屋に変わっても彼の細やかな気配りと気苦労は変わらないようだ。
やがて戦いが始まる。
ザラ殿がスーパースターとして戦術の要を演じ、ほむ殿、モモ殿が僧侶として波状攻撃にさらされるパーティを援護。
私は充実の援護を受け、バトルマスターとして攻撃するだけの簡単な仕事だった。
一戦演じた結果……
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我々の顔に禍々しくも勇ましい仮面が装着されることになった。バズズからのサービスだろうか。
狩りにおける連戦では素晴らしい効果を発揮する悪霊の仮面。運が良ければチョッピでの恐竜狩りも宿要らずとなり、狩猟生活も充実する。
……顔が悪役風になるのは、まあ目をつぶろう。
共に戦ってくれた仲間たちには感謝の一言である。