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セレドットを抜け、リャナ地方へ。引き続き我々はアラハギーロ王国を目指す。
急ぐ旅路ではあるものの、ついつい立ち止まって周囲を見渡したくなるのはレンダーシアがあまりに美しいからに他ならない。まったく、美しさは罪、である。
とはいえ、ゆっくりしていられないのも事実。例によって気になった景色を忘れないよう、ここに記しておくことにしよう。
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リャナは俗に荒涼地帯と呼ばれているが、そう呼ぶにはあまりに水の豊かな土地である。
セレドットから下る水が穏やかなせせらぎとなってリャナを流れ、やがて白いしぶきを伴い内海へと注がれていく。山頂から流れ落ちた水の終着点というわけだ。
水の行方をつい、追ってしまうのはウェディの習性というのだろうが、川の流れは地形の流れ、水の流れは人の流れ。水のつながりが地図と地図を繋げてくれる。旅人が土地のことを知るには重要な手がかりなのである。
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あえて街道を避け、崖沿いを行くと潮の香りがヒレを打つ。
内海を臨む海辺には古い灯台があり、かつては船乗りたちの行く手を照らしていたのだろう。こちらは内海の東沿岸にあたる地域で、海をはさんでメルサンディと対面する形になる。
左手には内海の南沿岸を象徴する海洋都市リンジャハルの遺産、リンジャの塔もその影をのぞかせる。
海沿いの道にはスイーツピーの華が鮮やかに咲き、甘い香りが旅の疲れを癒してくれた。
だがその美しさも今となってはあだ花か。
かつてはダーマ神殿への巡礼のため、アラハギーロからの旅人が行き来したというこの道も今では大分廃れてしまったようだ。
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海のかなたに日が沈み、山の端に月がかかるころ、我々は川沿いに作られた小さな集落に到着した。
明日にはアラハギーロに到着できるだろう。
かつて訪れたあの街の異様な雰囲気は今でも忘れられない。
果たして、レンダーシアを訪れた5大陸の冒険者たちが、あの国にどんな変化をもたらしたのか。
私もヴェリナードの魔法戦士として立ち位置を誤らぬよう、注意深く状況を見極めねばならないだろう。
考え始めると眠れなくなりそうだったが、幸いなことに滝の音は絶好の子守歌だった。
そして翌日、我々はついにアラハギーロに到達することになる。