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瞳を閉じ、星海の中に漂う自分を思う。紫紺の夜空に星がきらめき、一つ流れ、二つ流れ……。日ごと夜ごとに廻り移ろう。変わらないものなど一つもない。それでも天の河は悠然とそのきらめきを天に誇り、人々の目を潤している。
広大な銀河の海に魚一匹。ちっぽけなものだ。
必死にヒレを振り乱し、自分の道を泳いでいるつもりでも、気が付けば銀河は私のあずかり知らぬところでうねりを上げ、その形を変えていく。私はまたその流れの中を必死で泳ぎ、泳ぎ続け……。
アラハギーロに起こった政変は、私の想像をはるかに超えるものだった。
無常。されど変わらぬ日々。アラハギーロの灯は寂しげに夜を照らす。主の変わった城郭からは、冷たい光が洩れていた。
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情報が錯綜し、事件の真相も不明瞭な中、統治者だけは手際よくこの政変に対応しているようだ。さすがというべきだろうか? いや、あまりに手際が良すぎる。彼らはどこまで真相を知っているのだろう。
私はといえば、人々への聞き込みから一人の少女がカギを握っていることを突き止め、その足取りを追っていた。
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まずは謎の遺跡が眠るジャイラ密林へ。
この地の「守護者」は意外なほど手強く、そろそろリルリラやニャルベルトでは荷が重くなってきた。
アラハギーロ地方独特の輝く水は、このあたりから流れているらしくアラハギーロのオアシスから採収できる水と同じものが手に入った。
水辺だからといってペンギンまでが集まってくるこのジャングルはかなりの魔境に違いない。
興味深いことはいくつもあったが、残念ながら少女とはすれ違いになったらしく、収穫は無かった。一旦アラハギーロに舞い戻り、次の手がかりを追う。
ムルードの岩山。立ち並ぶ墓碑に刻まれた名前は、どこかで聞いたことがあるものばかりだ。
シーザー、サーラ、ピエール……。グランバニア王の伝説を懐かしく思い出していたちょうどその時、背後からはつらつとした声が響いた。
慌てて振り返る。と、探し求めていた少女が白く気高い獣を伴い、そこに立っていた。
身分を明かし、情報の提供を求めた私に彼女は少しためらい、信じられないかもしれないが……と、前置きしつつ、ゆっくりと真実を語り始めた。
それはあまりに不可思議で、悲しく、そして憂鬱な物語だった。
アルハリ砂漠の宝石は、今は精巧なイミテーションに過ぎない。
まるで無人の荒野に繰り返される滑稽な人形劇だ。
さもなくば夢だ。
蝶が自分か自分が蝶か。夢うつつのまま人々は演じ続ける。かつて自らが憎み、恐れた愚かさそのものを。
コインを裏返しただけで、ベルムドは満足だったのだろうか?
加害者の側に回ったかつての被害者を、彼はそれでも愛したのだろうか……。
そしてもう一つ、気になることがある。
私はかつてプクランドで魔物使いとしての修業をした際、レンダーシアに渡ったまま帰らない魔物使いの話を聞いたことがある。
この事件には少なくとも二人の魔物使いが関わっている。
私は以前見たベルムド王の険しい表情を頭に思い浮かべ、また、目の前にいる白い毛並のパンサーをまじまじと見つめた。
あるいは……。
いや、邪推はやめておこう。私は彼女に礼をいい、その場で別れた。彼女もまた、真実を追って旅を続けるとのことだ。いずれまた、道が交わることもあるだろう。
レンダーシアで私が関わった多くの事件と同じく、この事件にも結末は訪れていない。
人形劇は今日も続く。宝石は踊り、色とりどりの小さな三人組は無邪気に遊ぶ。
気になるのは、グランゼドーラの手際の良さだ。
関所は通行止めだが、もはや真相を究明するには、かの地を目指す以外に無いだろう。
女王陛下からの親書に役に立ってもらう日が来たようだ。
レンダーシア北西部、グランゼドーラ。最後の未踏地へ。
……ところで、エクゼリアはどこにあるのだろう……?