その日、ジュレットの私の家に一通の通知が届いた。
〝貴殿の弓術皆伝をここに認める。驕ることなく、より一層の鍛錬に励まれたし。 ヴェリナード魔法戦士団″
というわけで、私もとうとう弓の技術を極めるに至った。旅の合間を縫い、こまめにチョッピに通った甲斐があったというものだ。
これで魔法戦士が使える技は全て極めたことになる。噂に聞く上限解放のことを考えれば、つかの間の極みといったところだろうが、それなりに嬉しいものだ。
とはいえ、極めたというのは理論上の話。実際の運用に関しては実戦経験がものを言う。これからが本当の修業である。
まずは安物の弓を購入し、実戦での弓使いの動き方や剣との切り替え方を試してみようと思う。
「と、いうわけで私は出かけてくるぞ、ニャルベルト」
「ああ、それはいいんだけどニャ……ちょっとこっち見るニャ」
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振り返ると、ねこまどうのニャルベルトがガサゴソとゴミ箱の中をかき混ぜていた。なんだ、ゴミあさりとは浅ましい。
「変なゴミがあるのニャ。これ、何ニャ?」
鼻をつまんで杖で器用にゴミを持ち上げる。
「さあな、知らん」
「知らんてことはニャアだろニャ。なんかこれ、湿っててキラキラしてて、しかも無駄にいいにおいがするニャ」
「そうか、食べてもいいぞ。じゃあな」
「待つニャ!! 変な物を廃棄するとは怪しいニャ! さては魔法戦士団の陰謀の証拠を隠滅しようとしてたニャ!!」
喚く猫。バカバカしい。何が陰謀だ。
ゴミはゴミ。それ以上でもそれ以下でもない。さあ私は行くぞ。
「分析が終わるまで行かせないニャ!」
えぇいゴミを持ったまましがみつくな! 服が汚れる!
「くんかくんか……このいい匂いの元は花の蜜だニャ。そしてキラキラしてるのはよく嗅ぐとちょっと青臭いニャ。草の匂い……かがやき草だニャ!」
随分鼻がきくらしいな。お前、イヌ科だったか?
「ヴェリナードのイヌはお前ニャ! ……んで、縫い合わせてる糸の、この透明感……さてはあまつゆの糸ニャ!」
ご名答。名推理だなニャルベルト。これにて事件解決。じゃ、私は行くぞ
「だから待つニャ!! ニャんでこんニャものが出鱈目に縫い合わされてボロボロのグズグズになってゴミ箱に入ってるのニャ! しかも4つも! おかしいニャ!」
どこかから紛れ込んだんだろう。それより、私は急ぐんだ。
「おやおや、犯人は高跳びの準備かな~?」
と、二階から、からかうような声が降ってくる。
「少女探偵リルリラちゃん! この真実、いただきました!」
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決めポーズと共に飛び出したのは、エルフのリルリラだった。
……誰から習った、そのフレーズ。
「ルベカさん」
……余計なことを……。
「で、真実って何ニャ?」
「この三冊のノートが全ての謎を教えてくれたわ!」
……! そ、それは……どこでそれを!?
「本棚」
……次から天井裏にしまおう……。
「で、何のノートなのニャ?」
「ふっふっふ……一つはこれ!」
「えーと……32,30,34……? 残り-2、2、12……何の落書きニャ?」
人のノートを大っぴらに回し読みするんじゃあない!!
…という私の声など耳にも届かないらしくリルリラはすらすら解説を続けた。まったく、その長い耳はつけ耳か?
「猫ちゃんにはわからないだろうけど、これって裁縫職人が仕事中によくつけてるメモなんだよね~」
リラはニヤリとウインクをこちらに向ける。……わざとらしい!
「そしてもう一冊!」
「こ、これは……裁縫のレシピ帳ニャ!」
大きなため息。嗚呼、私のプライバシーはどこにいったのだ? 嘆かわしきかな情報漏洩の時代。
「これによると~……あまつゆの糸、花の蜜、かがやき草を素材にして作るのは……水晶のカーペット!!」
「ニャ!? カーペットにゃ!?」
「つまりこのキラキラゴミは水晶のカーペットを作ろうとして失敗した証拠! 犯人はお前だ!!」
びしっと私を指さす。……唇の端がプルプル震えているぞ、リルリラ。
「……笑っていい?」
ダメだといったら笑わないのか?
「笑っちゃう!」
好きにしろ!
次の瞬間、ジュレットの青空に、愉快な笑いがこだました。