白亜の臨海都市に響く笑い声。その中心にあって仏頂面の魚、それが私だ。
「いやー、いくらお前がぶきっちょでも、4回も失敗するとは思わニャんだ」
「格好つけて身の丈に合わないことするから、こうなっちゃうんだよね~♪」
エルフのリルリラとねこまどうのニャルベルトが失敗作のカーペット……もとい、ただのゴミをつつきながら笑い合っている。幸せそうで何よりだ。人の傷口を……まったく!
「で、さっき言ってた最後の一冊は何ニャ?」
「ああ、そうそう」
ひらりと三冊目のノートを取り出すリルリラ。
「犯人は特定された! でも動機は!? その答えがこれ!」
誇らしげに胸を張って……誇るような胸にも見えんが……彼女が開いたのは、私のアルバム帳だ。また勝手に持ち出したな。
「チームメンバーの、さこさんのマイホーム完成祝いに行った時の写真だね~」
「フムフム、マイホームにゃ……なんか話が読めてきたニャ」
…………。
さこ殿は豊穣の月のメンバーの一人。とある事情により、エルフからプクリポに転生するという数奇な運命を歩んでいるらしい。
チーム結成から約ひと月になるが、お互いのタイミングが合わず、私とはこの落成式で初対面となった。
「つまり犯人は、お近づきの印に手作りの家具をプレゼントしようとして、盛大に失敗したのだと思われます!」
「さすが名探偵ニャ! 素晴らしい推理ニャ!」
ああ、凄い凄い。まったく、血も涙もない連中め!
「今までマスターへの納品ぐらいしかしてなかったのに、急に無理するからだよ~♪」
「どうせ変にケチって安い針でも使ったのニャ。それで失敗してたらどうにもならないニャ♪」
くっ……反論できん。
だがな、リラよ。ニャルベルトよ。
航海士ムック・ナンバーはこう言っているぞ。モノづくりには失敗に費やす時間と予算が必要なのだ、と。
「……四つ分も必要かな?」
数は関係ない!
それに伝説の歌姫オクイア・キーも歌っているだろう。
どうにもならない今日だけど、平坦な道じゃ、きっとつまらない、とな。
何事も這い上がるくらいでちょうどいいのだ。
「うーん、言ってることは格好いいんだけどね」
「やったことは縫い物に4連続で失敗しただけニャ」
…………。
どうにもならない今日はせめて、笑い話に変えられますように。
その日、私は狩りに出かけた。
レンダーシア各地の守護者たちは、試練の門と称する儀式的戦闘により、冒険者の鍛錬役を担っている。今日のターゲットはジャイラの守護者。
共に挑むのは「月」のザラ殿にモモ殿、ユル殿。
先日皆伝を得た弓術の実戦訓練を積むのが私の本来の目的だった。
が。
「ミラージュさん、目がすわってる……」
誰かがそう言った。
もはや立ち回りも距離感もどうでもいい。
守護者には悪いが、これは天地に誓って嘘偽りなく、正真正銘の八つ当たりなのである。
ハチの巣にしてやった!