某月某日。グランゼドーラをめざし、レビュール街道を歩く。
ちなみに関所の門は女王陛下の親書が開いてくれた。なんでも他の冒険者たちは関所を通るため、並々ならぬ苦労をしたのだとか。
「そこいくとお前みたいな宮仕えは気楽だニャ」
猫魔道のニャルベルトがそう言ったが、私も任務あっての道行き。役得とは言うまい。
新大陸探索の任を背負い、ヴェリナードを旅立った私の冒険も、ようやく一つの区切りを迎えようとしていた。
関所より北、グランゼドーラへと通じるレビュール街道は遺跡の街道である。単に遺跡沿いの道というよりは、街道そのものが巨大な遺跡であるように見えた。
道を彩る柱は半ば崩れ、街道に寝そべる行儀の悪い神像が何より特徴的だ。朽ち果て、倒れ、祈る者も今はあるまい。
人通りは少なく冒険者や行商人が稀に通る程度のようだ。もっとも、関所があの様子では、人の行き来があろうはずもない。グランゼドーラは実質的な鎖国状態にある。異常を国内に持ち込ませないため、とのことだが……
「何か知られたくないことでもやってるんじゃないかニャ?」
ニャルベルトの軽口が邪推で終わることを願おう。
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遺跡街道はやがて文字通りの遺跡に続いていく。
左右に建ち並ぶのはかつて信仰の対象となった神々の像だろうか? 剣や杖を携えたその姿は、何者かと戦う聖者の姿にも見える。
朽ち果てた遺跡には守護者らしき魔物たちが未だその役目を健気に果たしていたが、彼らとて荒廃という名の風が吹き抜けていくのを止められはしない。大魔神の健闘も空しく遺跡は木の根の蹂躙を許していた。
遺跡を抜けると、そこは広場のような空間になっており、さらにその奥、整備された洞窟の先に奇妙なものを発見する。
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「何ニャ? テーブルかニャ?」
「井戸の蓋じゃないのか?」
何故こんな場所にぽつんと……猫と額を突き合わせて考えてみるが、答えが出るものでもない。
「そういえば、東側の遺跡も気になるニャ。どっか道は無いもんかニャ?」
ニャルベルトの言う通り、遺跡の東側入り口は崩れた柱にふさがれており、先に進むためには別の入り口を探す必要があるようだ。
いずれ探索してみたいが、今はあまり時間を賭けたくない。我々は先を急ぐことにした。
「ところでミラージュ、あれ何ニャ?」
帰り道、薄暗い遺跡の中で猫が目ざとく発見したのは黒塗りの豪華な宝箱だった。
おそらくは古代文明の遺産、しかもかなりの値打ちものに違いない。
猫目のニャルベルト、お手柄である。
期待と緊張を秘め、慎重に箱を開く。そこにあったのは……
"ジャンク屋ロンダルキア、ご招待券! 是非お友達を誘い、ご来店ください!"
見覚えのある猿の顔が描かれたカード。……何だこれは。
「営業活動も大変だニャア……」
白けた空気が遺跡の中を吹き抜けるのを、大魔神ですら止めることはできなかった。
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街道を抜け、グランゼドーラ領へ。ふと顔を上げると、遠くに天を貫くシルエットが浮かび上がる。
デフェルの神王の塔……にしては、高い影が一つや二つではない。方角からして、ジャイラの遺跡だろうか? それにしては巨大すぎる気もするが……。あれらの遺跡もまた、謎の一つだ。
ほとんど素通りのような形で駆け抜けてきた遺跡群だが、いずれ、向き合う時が来るのかもしれない。
「どこに行っても遺跡、遺跡、遺跡ばっかりだニャ」
ニャルベルトの言う通り、レンダーシアを歩く旅人は、必ずと言ってよいほど過去の遺産と対面し、その時代に思いを馳せる。
どうやらレンダーシアはドワチャッカと並ぶ、古代文明の眠る土地であるようだ。
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やがて綺麗に整備された街道が現れる。このあたりからは完全にグランゼドーラの支配域のようである。
「こっちの柱、どっかで見た形だニャ」
ニャルベルトが指さすのは、翼の生えた五角形の柱。確か、崩れた柱に阻まれて侵入できなかった遺跡の東部にも同じものが設置されていたのを瓦礫越しに確認している。
アラハギーロやリンジャの塔にも変わった柱があったのだがこれらが意味するところは何だろう? 遺跡は語らず、ただ古代の姿を我々の前に突きつけるのみである。
今はただ、謎を謎のまま楽しむことにしよう。
そして……
「うーん、ここまで長かったニャア……」
感慨深げにニャルベルトが頷く。私も同感だ。
グランゼドーラ。その堂々たる王城がついに我々の前に姿を現した。
迅速すぎるアラハギーロへの対処はいったい何を意味するのか?
そして賢者ホーローの語る勇者姫とは……?
門が開き、最後の王国が我々を招き入れた。