戦闘開始と共にリベリオの巨体が迫る。私はあえて逆らわず、押されるがままに任せた。
「どうしたニャ! 歯ごたえがないニャー!」
笑うリベリオ。だが、焦りは禁物。
一見無策のようだが、この形ならば壁をすり抜けられることだけは免れる。まずはそれが最低限の仕事だ。
やがて僧侶が重圧呪文の詠唱を終える。と、同時に私は足腰に力を込めた。
軍靴が土にめり込む。打ち合わせた刃が小刻みに震え、リベリオの前進が止まった。
「ニャッ……!?」
さらに刃に力を込め、押し返す。焦りの色が猫の顔に浮かぶ。してやったりだ。
第3戦にして、ようやく本来臨んだ形に持ち込むことができた。
苦し紛れに振り回したリベリオのサーベルが私の身体をかすめたが、すぐさま二人の僧侶が援護の呪文を飛ばす。逆に私の刃砕きがリベリオの戦力を確実にそいでいく。
後は倒すのみ。ニャルベルトよ、お前の出番だぞ!
「任せるニャ!」
魔力を覚醒させたニャルベルトが巨大な火球を杖の先に灯す。さしものリベリオも目を見開いた。猫魔道が先天的に持つ魔力の高さは人間や5種族の遥かに上を行く。今のニャルベルトならば、並の冒険者よりよほど強力な炎弾を打ち出すことができる。
「リベリオ、覚悟ニャーーー!!」
「ニャーーー!!!」
景色が歪むほどの高熱の弾丸が、リベリオの毛皮を焼き払った。
………。
………リベリオの?
「リベリオ! 吾輩の力を見せてやるニャーー!!」
落ち着け! 最初に狙うべきは遊撃手のミャルジという作戦だろう!?
リベリオ憎さに頭に血が上ってしまったのか……いや、そうではない。
元々ニャルベルトは弱った敵への攻撃を重視する傾向がある。無傷のミャルジと、私と剣を交わし僅かに傷を負ったリベリオ。彼は本能的にリベリオをターゲットに選んだのだ。
こうなっては仕方がない。舌打ちしつつ、私は鍔迫り合いになっていた剣を跳ね上げ、天窓に掲げた剣に魔力を送り込んだ。
「むニャッ……!!」
聖王の剣が光の束に変化する。剣士の十八番、ギガスラッシュの構えだ。
光刃がリベリオを薙ぎ払う。轟音と閃光が走る。
剣撃の嵐が駆け抜け、しかしリベリオはニヤリと笑みを浮かべた。
「大した威力じゃないニャー!」
平然とした様子でリベリオは勝ち誇る。確かにリベリオには大した打撃にならないだろう。
「だがミャルジはどうかな?」
「ニャッ!?」
巻き込まれたミャルジは、猫並外れたタフネスを誇るリベリオのようにはいかない。
さてニャルベルトよ。簡単なクイズだ。今のリベリオと今のミャルジ。どっちを狙う?
「ミャルジ、覚悟ニャーーー!!」
猫魔道はあっさりと火球の矛先を変更した。全く、素直というか単純というか…
こうしてミャルジのダウンを奪う。キャット・マンマーの蘇生呪文も体力までは回復できない。定期的に立ち上がるミャルジを即座にメラミが襲う。
私はリベリオを後衛から引き離し、敵の刃を砕きつつ、可能な限り体当たりで行動を阻止する。
補助優先での行動を命じた僧侶は流石に心得たもので、ズッシードの効果切れを察知すると最優先でかけ直し、スクルトによる援護も充実したものだ。
一方もう一人の僧侶はその合間に生じする隙を迅速な回復魔法で補う。奇しくも「行動が重ならないように」と事前に役割分担を行う冒険者たちの戦術を疑似的に再現する形になった。
不安点といえば、リベリオの体力が半減した後の展開である。再びニャルベルトのターゲットがリベリオ優先になってしまう。再びギガスラッシュでミャルジを巻き込む必要があったのだが……
「隙ありニャ!」
今度、学習したのはリベリオの方だった。
私が大技を放った隙に抜刀太刀風を放つ。体当たりは間に合わない。壁が崩された!
「ようやくこっちのターンだニャー!!」
リベリオは暴れに暴れた。得意の五月雨斬りが後衛を切り裂く。と、同時にキャット・マンマーがミャルジを蘇生。一瞬、最悪の展開が脳裏をよぎった。
刃砕きでリベリオの力が半減していなかったら、スクルトによる守備強化が切れていたら。あるいは、それは現実のものとなっていたかもしれない。
猛攻を耐え抜いた僧侶たちが回復と蘇生を間に合わせ、立ち上がった私は再び壁となる。ギガスラッシュが周囲を薙ぎ払い、ニャルベルトがミャルジにとどめを刺し……
立て直しは辛うじて成功。陣形が乱れたついでだ。ニャルベルトに聖水も使っておこう。
再びリベリオを壁際まで追いやり、火球による攻撃を続ける。もはやリベリオは息も絶え絶え。あと一押しだ。
「ニャルベルト、合わせろ!」
「おうニャ!!」
ギガスラッシュがリベリオを引き裂くと同時に、ニャルベルトの火炎弾が巨猫の顔面をとらえた。