煌びやかなネオンが人通りでにぎわう街を照らす。
あの輝きがドルワーム仕立てのカラクリによるものか、魔法によるものか、寡聞にして私は知らない。
だが、人工の光彩が人々の射幸心を掻き立て、アリジゴクのように獲物を誘う様を見れば、少なくとも生半可な魔法よりは人の心を操る力があるように思う。
レンダーシアの南、大陸から切り離されたラッカラン島は、その別名を娯楽島という。
しばらく前に開店した豪勢なカジノは、その象徴とも呼ぶべき施設である。
レンダーシアでの旅もひと区切りつき、ヴェリナードへの報告も済ませた私は久しぶりに休暇を取り、この島を訪れていた。
扉をくぐると、カジノが持つ独特の濃厚な空気が私を出迎える。
赤と緑を基調にした豪勢な飾り絨毯、人々の歓喜の声、嘆きの声、一様に微笑みを浮かべるバニーガールたち。
それらを見下ろすキングスライムの彫像は、何かの冗談だろうか。
頭上に示された、ジャックポットの天文学的なコイン数が人々に叶わぬ夢を見させる。罪づくりなものだ。
ここはギャンブラーの桃源郷。
それぞれの直感を、幸運を、あるいは誰かの提唱した「理論」を試そうと、夢見がちな冒険者たちは妖艶なウサギたちに導かれ、次々に不思議の国へと飛び込んでいく。そこが夢の国か悪夢の国か、目が覚めてみてのお楽しみだ。
私はその様子を一瞥して受付嬢の方に声をかけた。
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「カジノへようこそ。ここではコインを購入できます」
販売員のイサラが、極上の営業スマイルで私を出迎えた。
「あら、既に1000枚のコインをお持ちですね。購入できるコインは1000枚が限度となっており……」
「チケットを」
青いウサギが言い終わる前に私は懐からチケットを取り出した。
「まあ、交換チケットをお持ちなのですね。それでは、銅のチケット一枚につき100枚の……」
ばさり、とテーブルにチケットを突きつける。
銀が4枚。銅は20枚。イサラの顔つきが一瞬、変わったのを私は見逃さなかった。
「全部で……コイン4000枚になります」
「ありがとう」
「……あなたに幸運の女神が微笑みますようにお祈りしておりますわ」
さて、一瞬の沈黙は何を意味したのやら。
彼女に背を向け、手持ちと合わせて5000枚になったコインを手に、私は景品交換所へと急いだ。
「5000枚でルーラストーン一つ」
「は、はい……」
コイン販売所での一部始終を見ていたのだろう、景品交換の受付嬢も微笑みが若干引きつっていたようだ。
「ありがとう。またくる」
「ど、どうも……」
踵を返し、出口へを歩いていく私の背中に、ぼそりとバニーたちのつぶやきが聞こえてきた。
「……遊んで行けよ……」
「二度と来るな……」
こうして私は収穫と共にカジノを後にした。