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それは私がレンダーシア探索の任務に一区切りをつけ、女王陛下に旅の成果を報告するため、母国ヴェリナードに帰還した際のことだった。
魔法戦士サロンに顔を出した私は、すれ違った同僚が虚ろな笑みを浮かべるのをみて、おや、と首をかしげた。
見ればそこかしこに似たような表情の魔法戦士が愚痴っぽい会話を交わしているではないか。流石に団長と副団長の顔はキリリと引き締まったものだったが、サロン全体に漂う憂鬱な空気は隠しようもなく、たまに連絡に訪れる衛士隊や調査員の面々も、やりづらそうな顔をしていた。
さて、これはどうしたことか……と、とぼけてみるものの、私も魔法戦士のはしくれ。今、この時期にがっくりと肩を落とす彼らを見れば、大体の事情は想像がつく。
道具使いの登場は、我々魔法戦士にとって青天の霹靂というべき出来事だった。
私も敵情視察ということで一度、道具使いの生みの親、デルクロア氏を訪ねてみたが、なるほど、彼らの力は侮りがたいものがある。
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バイシオン、ピオリム、スクルト、マジックバリアを併せ持ち、ディバインスペル、ラリホーマまで備えた道具使いは、まさに補助魔法のスペシャリストである。
更に、少し手間をかければ聖水の効果を実質8倍にまで高められるとあれば、もはや魔力供給役としての地位すら危うい。
将来的にはフォースも研究が進み、全体化が実現するのではないかと言われているが、フォース自体の使い勝手を考えれば、その程度で挽回は難しい。
ならば攻撃力で勝負を、と思いたいところだが、道具使いの腕力は魔法戦士の上を行く。
武器に関しても片手武器最強と呼ばれるブーメランに、補助効果に優れるハンマー、威力増大で勢いを増す槍を使う彼らに対し、こちらの武器は少々寂しい。弓は道具使いも使用可能。片手剣も悔しいことにギガスラッシュの発射台に過ぎないというのが正直な分析である。
待ち望んでいた重鎧も解禁されず、壁役としての活動も厳しくなる今日この頃。常夏のウェナに冷たい風が吹きすさぶ。寒い時代ということか。
もはや魔法戦士に未来は無いのだ、などと嘆く者もいるが、さすがに私はそこまで悲観的ではない。
事態は深刻だが、とりあえずバイキルトと早読みの杖、それにギガスラッシュのおかげで、複数人への素早い強化と殲滅が必要な場面では、辛うじて分があるだろう。
後は手持ちの札で出来る限りの勝負をしつつ、次に配られる札を待つだけである。
次に配られる札……
私の脳裏には、かつて見たラーディス流剣術が焼き付いていた。
あの技は、バトルマスターが得意とする無双の連撃に勝るとも劣らない大技に見えた。
そして聞こえてくる新時代の剣技、超はやぶさ斬りの噂……
もし、あの大技が超はやぶさ斬りだとしたら。そして天下無双と同等とまではいわなくとも、他の武器に負けないだけの力があれば。
道具使いは補助のスペシャリストとして、魔法戦士は補助と攻撃役を兼ねる複合職として、差別化も可能になるだろう。
都合のいい夢を見るなよ、と人は笑う。が、わざわざ好き好んで悪夢を見るのも悪趣味というもの。
アストルティアを支配する神々の手腕に期待するとしよう。
道具使いが弓を扱える以上、片手剣の強化には魔法戦士の未来がかかっているのだ。
さて、気分転換がてら、城を出て街を歩けば、聞こえてくる話題は新開発の装備品についてだ。王軍師やアポロン。新時代の武器防具に人々の視線は釘づけである。
憂鬱な気分を吹き飛ばすためもあって、私も新装備に手を出すことにした。
前々から目をつけていたレイブンセット。付与された身かわしの魔法は敵を問わず使えるうえ、敵が強いほど役に立つ。加えて、自由に付け替え可能な下半身装備で安く耐性を整えられる点に注目し、思い切って一式を購入してしまった。
もっとも、私の財力では+2相当の錬金品が精一杯。最高級の魔法の鎧と比べてどちらが上か、微妙なところではあるのだが……
……考え始めると逆に滅入ってしまいそうなので、やめた。
すでに購入してしまった以上、やるべきことは一つ。
ドレスアップである。
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一説によればエルトナ伝統のシノビとドルワームの科学技術班が協力して発足させた科学忍者隊の制服であるとも噂されるこの衣装は、実に形容しがたい独特の雰囲気をまとっている。
……手足はまあ、良いとして、この奇抜な兜で旅をする気にはなれない。身体もマントの色が変えられず、なにより脇の素肌がむき出しになる点が私の好みから外れる。
とりあえず、いつものノーブルコートの形に整えておくことにした。
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ドレスアップ用の買い物でさらに散財したことは言うまでもない。明日からは再び、金策の日々が待っている。
少々世知辛い新時代の旅立ちであった。