緑色の肌に青い髪。白衣に包まれた小柄な青年は、有無を言わさぬ強い口調で壇上から号令をかけた。
「……事態は一刻を争うものです。速やかに行動に移って頂きたい。以上」
一方のラミザ王子は、彼の言葉に頷くと、騎士たちを率いて会議室を飛び出していった。
悠然と見送るドゥラ。やれやれ……これではどちらが王子だか。軽いため息が私の口元から逃げていった。
会議とはいうものの、これは実質的にドゥラ院長による命令を伝達するための場であると言えた。王子ですら、彼の前では命令に従う一兵卒である。王族に向けて淡々と指示を飛ばすその態度は、いかにも尊大に映った。
無論、彼は天魔復活という未曽有の事態に対し、最善を尽くしているだけなのだろう。天魔をよく知る自分が指揮を執るのが最も効率的だと判断したに違いない。それはおそらく正しい。
だが、彼にはかつてウラード王の落胤を自称し、王位を窺ったという過去がある。その過去と今の姿を重ねれば、疑惑が育つのは麻が芽を出すより早い。
壇上に立ったドゥラ院長の姿に、かつての野心家ドゥラの影を見出す者がいないと言い切れるだろうか。
宮廷雀たちのさえずり話は、決して馬鹿にできない影響力があるのだ。
せめて、事前に王子にことを打ち明け、王子の口から騎士団に号令をかける形にするぐらいの工夫があってもよさそうなものだが……。
ドゥラは頭脳明晰な男だが、そのあたりの配慮には欠けるタイプに見えた。学者気質という奴だ。間違ったことは何もしていないだけに性質が悪いのだ。
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一方のラミザ王子は、己の立場や権威を誇示するタイプではない。王族だからといって驕ったところのない、謙虚で従順な好青年なのである。ドゥラ院長のことも、心から信用しているようだ。
彼を逆さにして振ってみても、プライドゆえに今の扱いに不満を持つ、などという発想は出てこないに違いない。
不遜を承知で彼の人物を評するなら、人の下で働くのに適した人物と言える。
王子という立場でさえなければ、何の問題もない、好ましいな人物なのだが……。
ウラード王も苦労をされることだ。
その王は、王子にすべてを任せたということなのか、この一件にはかかわらず、会議室にも顔を出さなかった。王子にとっては責任重大だが、同時にその器を見せつけるチャンスと言える。本人にその気があるかどうかは別として。
私はふと、ヴェリナードのオーディス王子のことを連想した。
こちらは王子としての自覚に満ち溢れた人物だが、ややその意識が強すぎ、また行動力がありすぎるのが欠点だ。
ドゥラ院長とは違う意味で、ラミザ王子とは正反対の青年である。足して2で割れば丁度よい塩梅になるのかもしれない。いつか二人を引き合わせてみたいものだ。
……いや、もう一人。
私はちらりと壇上に目をやった。
ドゥラ院長も含めて、三人で対面させてみたいものだ。
生まれながらに王の座を約束された男と、王の座を欲し、夢破れた男。
そして王の座を欲し、それを手に入れようとしている男。
ウェナ、ドルワーム両国の次代を担う彼らの邂逅は何を生み出すだろうか。
一介の魔法戦士の立場で何ができるわけでもないのだが、その姿を見てみたいと、私は思った。
もっとも、全ては天魔封印を果たした後の話である。
目の前の敵は、それほど容易い相手ではない。
ドゥラ院長より、魔法戦士団に下された指令は、封印の楔となるゼキルの聖杭にまつわる探索行だった。
天魔討伐への道のりを思えば、その更に先のことなど、遠い未来の話である。まずは目の前の任務だ。
あれやこれやの思いを胸の奥底にしまい、私はドルワームを後にした。