アラハギーロでの情報収集はなおも続く。
以前はわからず仕舞いだった戦争の始まりについても、ここでは聞くことができた。
焦点となるのはピラミッド。魔族たちの狙いは、建国の要となった聖なる石とやらに違いない。
どうも、我々が日々、荒らし放題に暴れているあの古墳は、想像以上の代物だったらしい。
そして戦となれば民にかかる負担も相当のものだ。この国を覆う暗い雰囲気も、そのせいである。
勇ましく出陣した兵士たちは行方知らずとなり、魔瘴の眷属たちも消え去り、残されたのは、兵士の帰りを待つ人々だけだった。
「うちの人は生きているのか死んでいるのか……もう待つのに疲れたわ」
ある女性はそう言った。
家族が生きて帰ることを願うのは当たり前だ。たとえ帰らなくても、生きている望みがあるだけマシだと考えるのが筋ではある。彼女だって、心の内ではそう思っているだろう。
だが、人は心だけで生きるというわけにはいかない。幽霊の類でない限り、彼女には息をし、汗をかく肉体がある。蜉蝣のようにゆらゆらと宙を漂っているわけにはいかないのだ。
待てど帰らぬ家族を、いつ帰ってきても良いように待ち続ける生活の重荷は、確実に彼女の肉体と、それに宿った心を蝕んでいるように見えた。
「いっそ、死んだとわかった方がマシよ」
疲れ果てた女が、そんな言葉を漏らしたとしても、誰が彼女を薄情と咎められようか。
戦とは戦場だけで行われているのではない。国そのものを覆う見えない刃との戦いなのだ。
居残り兵士たちの話すどんな具体的な戦況よりも、一人の女の零した溜息が、私に戦争の傷を教えてくれたようだった。
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その他、気になることと言えばベルムド王……いや、魔物使いベルムド氏の話だ。
彼はどうやら、私の知る歴史通りの道筋を辿りつつあるようである。
戦時中ゆえ、彼の職場、モンスター闘技場も閉鎖中である。中にホイミスライムがいるなら、一度会ってみたいが……。
いや、歴史の通りであれば彼女も出征した兵士たちの元か。
その歴史の流れを遮ることができるなら、そうしてみたいところだが、肝心の王と軍隊が行方不明ではどうしようもない。
この街で私ができることは、多くはなさそうだ。
一通りの現状をヴェリナードへの報告書にまとめた後は、長居せずに次の街に向かうことにしよう。
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次の目標はセレドット。ダーマ神殿である。
噂によれば、かの神殿には、新たな力を得るための儀式が伝えられているとのことだ。
しかも、その儀式は明日から一般に公開されるという。
現状や、伝え聞く噂話から判断するに、魔法戦士にとって劇的な変化は期待できないが、それでも無いよりはマシである。
「……本当にそう思ってる?」
と、今度はリルリラが、からかうような笑みを浮かべて私の肩をつついた。
「本当は期待してるんじゃないの?」
……あのな、リルリラよ。
私は大きなため息を吐き出した。
「本当は劇的な変化に期待したいが、期待してがっかりするのが嫌だからわざと期待しないようにしている、などと口に出して言えるわけがないだろう」
「言っちゃったニャ」
あきれ顔のニャルベルトと、肩をすくめるリルリラ。
「バレバレだったけどね」
……ご明察の通りで結構なことだ。
ま、兎も角。じきに公開される新技術を、まずは身に着けて、使ってみてからの話だ。
負担の大きな秘技を放つために必要な冷却期間……俗にいうチャージタイムとの付き合い方も考えなければならない。
補助魔法と攻撃を絡ませることで上手に付き合っていきたいものだが、こればかりは使ってみなければわからない。
武器を持ち替えた時の影響も気になるところだ。
全ては明日、ダーマ神殿で明らかになることだろう。
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輝くオアシスを越え、潮香るリャナの道を抜け、目指すはセレドット。待つのは歓喜か失望か。
期待しすぎないよう、細心の注意を払いつつ、私はドルボードを起動するのだった。