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試練は、想像を絶する苦痛を伴うものだった。
技術解放への道のりがここまでの難関とは、誰が想像しえただろうか。
私はスキルマスターの顔から目を離そうとし、咎められてまた彼に向き直った。
不自然なほど長いまつ毛が、端正だがあまり眺めていたくない男の顔面を彩る姿は不気味である。
だが彼の顔を間近に凝視し続けることが解放の条件と言われては、どうしようもないではないか。
おそらく時間にすれば数秒のことだったのだろうが、苦痛はその一瞬を那由他の位にも感じさせるものだった。
「はい、よろしいですよ」
スキルマスターの合図で、私はようやく目をそらすことを得た。
「では、次はこちらをご覧ください」
と、マスターが彼の弟子、タッツィの肩に手を回す。マスターの麗しいまつ毛と気弱げなタッツィ少年の顔つきが耽美な空気を醸し出し、吐き気が私の喉を襲う。
「目をそらさずに!」
どうやらこれも試練のようだ。彼らのやり取りを見聞きする数秒が、永劫の時にも思われる。
技術解放には肉体よりむしろ精神の修養が必要なのだろう。そうでも思わなければこの試練は過酷すぎた。
ようやく儀式が終わった時、私の心はボロボロに疲れ果てていた。
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その後、余興として二匹のトカゲと戯れたが、そちらは特にどうということも無い。苦戦はしたが、かつて仲間たちと共に戦った本物の赤竜と比べれば、しょせん紛い物だ。
もっとも、次の時には本物とやりあうことになるかもしれないが……
ともあれ、酒場で雇った優秀な冒険者たちに感謝である。
こうして私も無事、技術解放の認可を得た。
早速、魔法戦士が使える技を全て習得する。
片手剣、杖、フォースについては良くも悪くも予想通り。有用ではあるが、劇的な変化には至らないという感想だ。
盾は少々癖がある。強敵を相手に補助に徹する場合ならば使う価値があるだろうか。
一方、注目すべきは弓術の奥義、シャイニングボウである。
的を選べないとはいえ、魔法戦士が使える技としては破格の威力を持つこの技は、有難い存在になりそうだ。
そして最も私を喜ばせたのは、武器を持ち替えても、大技のための集中……チャージタイムが途切れることは無い、という事実である。
これにより、単体としてはやや頼りなく思えた超はやぶさ斬りも存在感を増してくる。
普段は補助に徹しつつ、二つの武器のチャージ状況を確認し、溜まった方の武器の持ち替えて大技を放ち、また補助に戻る。
武器が一つではさすがに間が持たないが、二つあれば結果的にはチャージの待ち時間も短縮される。既に予言された、更なる技術解放の時がくれば、技も追加され、待ち時間はより短縮されることになるだろう。
常に攻撃を続ける前衛アタッカーにとってはともかく、魔法戦士のようにチャージ時間を別の行動に割り当てられる職業にとっては、ありがたい環境と言えるのではないか。
チャージ技を使った回数で、強化呪文をかけ直すタイミングを大まかにはかることができるというのも、強化をうっかり切らしてしまうことの多い私にはありがたい。
チャージタイムにより攻撃と補助が明確に分かれることで、実は補助の意識も高まることになるのだ。
欲を言えば、もう少し素早く武器を持ち替えたいとは思うが……。
一つ気になるのは道具使いの動向。
彼らも魔法戦士と同じくチャージタイムを補助に充てられる上に、弓の扱いにも長けている点も同じだ。差別化のためにはフォースとバイキルトに頑張ってもらうことになりそうである。
同じく解放の試練を終えた「月」のザラ殿、アスト殿、そして友人のN氏と共に実戦での試し斬りを行ってみたが、おおむね、想定の通りに戦えそうだった。だが、やることが増えた分、仲間の魔力切れに気づかないという不手際もあり、より細心な注意を払う必要がありそうだ。
まずはできるだけ多くの戦いを経験し、新しい時代の魔法戦士スタイルに慣れていくことにしよう。
次の解放に向けて、多少の修業も積まなければならない。
レンダーシアの探索も半ば。やることはまだまだある。
……とはいえ、焦りすぎても仕方がない。
自分の速度で目標に近づいていうことにしよう。